研究課題/領域番号 |
20K14906
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
白石 レイ 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (20847321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会住宅 / 非営利住宅 / 都市更新 / 組合所有住宅 / housing cooperatives / コーポラティブ / 参加 |
研究実績の概要 |
本研究は、都市のストック更新において取り残されやすい社会・経済的に脆弱な人々のための集合住宅計画に関して、非・限定営利目的の集合住宅供給が質的・量的に展開されている西欧の先進事例より基礎的知見を得ようとするものである。具体的には、まず社会住宅や参加型住宅をめぐる様々な住宅計画形式の定義・概念の国際比較を行う。次に近年顕著な発展を見せるスイス・チューリッヒにおける公共・非営利団体によるCooperative Housing(組合所有住宅計画)、オーストラリア・メルボルンにおける非・限定営利団体によるNaightingale Housing(建築家企画型プロセス参加住宅計画)を研究対象とし、それぞれの都市的与件と各住宅地におけるプロセス・所有形態の国際比較を通して、質の高い非・限定営利住宅が都市的に展開されるための、政策的・社会的・都市建築的要件を抽出する。 本年度は、要素研究(i)および、要素研究(ii)を実施した。要素研究(i) は、問い①(建築・コミュニティの質)や問い②(都市的展開の要件)を明らかにするための前提条件に関するものであり、非・限定営利住宅供給や参加型社会住宅をめぐる様々な住宅計画形式の国際比較を行った。具体的には、シドニーニューサウスウェールズ大学の研究者との国際共同研究により、具体的な先進事例の比較に関するディスカッション、ターミノロジーの確認を通して、計画形式の定義・概念の類似・差異の詳細を明らかにした。 要素研究(ii) は、問い②について非・限定営利住宅供給の都市的展開を可能にする都市的与件を抽出するものである。本年度は、チューリッヒ市における組合所有住宅が建築ストックの更新へ及ぼすインパクトについて考察するため、GISオープンデータの分析を中心に研究を進め、組合所有住宅の立地変遷および立地特性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
要素研究(i) は1 年目の初めに行う予定としており、予定どおり本年度に海外共同研究を開始することができた。現在、研究成果の発表に向けて、計画していた建築学会計画系論文集への投稿のための、論文「参加型社会住宅計画形式の定義の国際比較:コーポラティブ・ハウジングとCooperative Housing の違いに着目して」の執筆を行っている。また、予定していなかった成果発表である国際学術本出版に向けたオーストラリア、オランダ、フィリピン等のHousing研究者との共同編集チームを立ち上げ、参加型都市住宅に関する執筆を行っており、「当初の計画以上」に調査研究を進めることができた。 要素研究(ii)については、予定どおり本年度に研究を開始することができたが、本来立地特性分析に先立ち、文献調査による政策的・社会的与件の整理を行う予定であった。しかし、これについては新型コロナウイルスによる現地での資料収集が滞り、十分に実施することができなかった。一方で、要素研究(ii)の大部分を占める組合所有住宅の立地特性については、現地での資料収集が不要であったため、十分詳細な分析を行うことができ、要素研究(ii)全体としては「やや遅れて」研究を進めることができた。 以上より、本年度の進捗状況は「おおむね順調」に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、要素研究(iii)に入り、問い①の答えを導くための住宅地の建築・コミュニティの質に関する調査研究を実施し、要素研究(ii) より抽出した事例の質的評価を行う予定。当初、建築に関しては図面の分析と建築家へのヒアリング調査を通して、コミュニティに関しては住民へのインタビュー調査を通して、コストを抑え住民間の共同活動を創出する共有スペースや住宅地の運営手法の分析を行うことを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により現地渡航が制限されるなかで、運営手法などのソフト面について詳細に明らかにすることは難しいため、図面などの入手可能な文献調査を中心に、主に空間についてのハードの部分に関する調査分析を進めたいと考えている。 さらに、要素研究(i)および要素研究(ii)の成果発表に向けた論文執筆については引き続き行い、要素研究(i)については来年度中、要素研究(ii)については再来年中の投稿を目指す。本年度十分に行うことができなかった文献調査による政策的・社会的与件の整理については、引き続き文献収集に努め、可能な範囲での調査活動を継続する。
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