研究課題/領域番号 |
20K14906
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
白石 レイ 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授(テニュアトラック) (20847321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組合所有 / 参加 / 非営利住宅 / 量的供給 / 社会住宅 |
研究実績の概要 |
本研究では、「非・営利目的の組合所有住宅供給や建築家企画型住宅供給は、①個々の住宅地の建築・コミュニティの質を向上させ得るのか、そして②それらが量的に都市へ展開されていく要件は何か。」という2つの問いの下、(i)-(iii)の3つの要素研究で構成されている。 昨年度は、問い①(建築・コミュニティの質)や問い②(都市的展開の要件)を明らかにするための前提条件に関する要素研究(i)を終え、非・限定営利住宅供給や参加型社会住宅をめぐる様々な住宅計画形式の国際比較を行い、それらの定義・概念の類似・差異の詳細を明らかにした。 また、問い②を議論するための基礎研究である要素研究(ii)に関し、非・限定営利住宅供給の都市的展開を可能にする都市的与件について、非・限定営利住宅の立地特性をGISを用いて分析を行った。具体的には、スイス・チューリッヒにおける組合所有住宅を対象に、7,000件超の該当建物の立地分析を行い、2000年前後から組合所有住宅建設のリバイバルが起こり現在は市内の総開発件数の約3割を占めること、市周縁部(ただし、比較的人口密度が高く公共交通の便は良い)の立地が多いこと等が明らかとなった。 本年度は、問い①の答えを導くための住宅地の建築・コミュニティの質に関する研究である要素研究(iii)について、昨年度要素研究(ii) で取り扱った住宅地のうち計画詳細に関する文献が入手可能であった住宅地を対象とし、事例の計画概況について分析を行った。具体的には、各住宅地の計画に関する記述から、計画コンセプトと複合機能の分析を行い、良好なオープンスペースの創出がテーマとなっていること、2000年代においては幼保施設等との複合、2010年代には映画館、ホテル、大学、商業施設やオフィスといった多様な施設との複合が一般化していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
要素研究(i) については、予定どおり昨年度に海外共同研究を開始することができた。本年度は、その成果となる論文を執筆中である。しかし、分析対象とすべき文献のうち一部オンラインで入手不可能なものがあり、執筆・発表が「やや遅れている」。一方、参加型住宅供給の国際比較について、国際学術本出版に向けたオーストラリア、オランダ、フィリピン等の研究者との共同編集チームを立ち上げることができ、現在執筆を行っている。これは、当初想定していなかった成果であり、「当初の計画以上」に調査研究を進めることができている部分である。 要素研究(ii)、(iii)については、従来、スイス・チューリッヒにおける公共・非営利団体による組合所有住宅計画、オーストラリア・メルボルンにおける非・限定営利団体によるNaightingale Housing(建築家企画型プロセス参加住宅計画)を対象に、2都市での住宅供給について調査を実施することを想定していた。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大により現地渡航が制限されている状況下において、Naightingale Housing については民間主導のケースであるため関連文献やオープンデータが少ないことから、概要を整理する基礎的研究にとどまっており、要素研究(ii)、(iii)における詳細分析には至っておらず、当初の想定より「遅れている」。 また、チューリッヒにおける組合所有住宅については、要素研究(ii)、(iii)を実施できてはいるものの、要素研究(ii)でのGIS分析においてはデータ入手にあたって特段の支障はなかった一方で、要素研究(iii)においては、予定していた現地での行政、建築家、住民へのヒアリング調査が実施できておらず、文献調査でのデータ収集・分析にとどまっていることから、状況は「やや遅れている」。 以上より、総じて進捗を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、要素研究(i)について、引き続き不足している文献の収集に努め、可能な範囲での成果発表に向けた論文執筆を行う。 要素研究(ii)、(iii)については、入手可能な文献が限定されているオーストラリア・メルボルンにおけるNaightingale Housingについては現段階での成果までで打ち切りとし、主に文献調査による分析が可能なスイス・チューリッヒの組合所有住宅のケースに注力する。具体的には、昨年度実施した要素研究(ii)において明らかとなった組合所有の立地特性について、再度データを精査し再分析を行う他、これを要素研究(ii)において明らかとなった各住宅地の計画詳細の分析と複合させ、問い①、問い②に対する結論を導くための考察を行う。また、要素研究(ii)、(iii)の結果の複合的な分析の前提となる、法律や制度等といった組合所有住宅をめぐる政策的・社会的与件の整理について、文献調査を基本に調査を行う。 以上、基本的には、文献調査のみでの成果創出を想定しているが、所属機関より許可が得られた場合には、チューリッヒへ渡航し、要素研究(iii)に関わる行政へのインタビュー調査や住宅地での現地調査を実施したい。現在も依然として海外渡航の可能性については不透明な状況にあるが、現地調査によるオリジナルデータ入手の可能性を模索したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染拡大の状況のようすを見ながらの研究活動の実施となり、最後まで渡航の可能性を残したままでの予算使用を行ったため、次年度使用額が生じた。来年度、状況が許せば現地渡航にかかる費用として使用したい。なお、渡航が叶わない場合は、翻訳や調査の補助員の雇用費用にあて、調査を円滑に進めていく。
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