過年度より事例研究を進めてきた轟神社(徳島県海部郡海陽町)神職への聞き取り調査により、当該神社を介した非居住者による地域活動の展開の状況と、そこに至るまでの過程について明らかにした。当該神社とその祭祀を支える広義の「担い手」は、調査時現在、人口減少の進む従来の氏子区域の範域に依らず存在している。この要因として、神職や総代による普遍的な教訓を伴う文化資本としての当該神社の対外的な価値づけや情報発信の経緯が捉えられた。このような社会的状況に応じた当該神社の様態変化は、神職や総代らによる慎重な合議のもと進められてきたことも併せてうかがわれた。得られた研究の成果については、副次的なものも含め、雑誌論文1件、学会発表3件として発表した。 なお当研究の期間全体を通じて得られた展望として、人口減少の進む地域社会の持続再生に寄与しうる、当研究で当初から着眼していた神社の特性に加えて、相互生成関係にある環境と文化のありようをより高い解像度で読み解く「作法」として神社祭祀を捉える視座について検討余地があると考えるに至った。この視座を論じるにあたっては2022年度研究成果に含まれる「間繋」(かんけい:生生と「間」がつながれてゆくこと。研究代表者による造語)概念の精緻化も重要と考えているが、引き続き前述の轟神社における地域活動への参与観察(徳島大学と合同会社みつぐるまによる共創事業「海部川流域文化継承プロジェクト」)を通じてさらなる深化・敷衍を図り、神社以外の文化資源にも汎用性のある地域マネジメント論を導く予定である。
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