研究課題
東地中海の沿岸部に存在したビザンティン帝国史には、イスラーム勢力との抗争や聖画像破壊運動によって、初期(7世紀まで)と中・後期(8世紀以降)の間に史的断絶が存在する。この時期に建築活動の担い手は建築家から経験則に基づく工匠たちへと移行した。本研究は史料の残されていない初期から中期ビザンティン時代の社会的な変遷を明らかにする一つの鍵として残された建築に着目するものであり、特に工匠たちの経験的な知見において最も基礎的な要素と位置づけられる寸法体系に着目する。その目的は、中期以降の寸法体系の実態が精査されてこなかった地方部において、異なる首都との関係性を有していたカッパドキア・クレタ島・キプロス島の三地域の教会堂群を実測し、地方部と首都の寸法体系を比較・検討することを通じ、中期ビザンティン帝国全土の尺度を体系的に明らかにすることにある。同時に得られる成果はビザンティンの地方部における知識の伝達の実態とそれに首都が果たした役割を提示するものでもある。最終年度となる本年度は、研究期間中初めてコロナウィルスのパンデミック以前とほぼ同様の状態で現地調査ができた年でもある。しかしコロナ禍を通して、現地調査の許可申請取得方法などが変化を生じたため、当初のようにカッパドキア・クレタ島・キプロス島の三箇所に場所を絞らず、より広い範囲で調査を行うことにした。具体的には、トルコ共和国のカッパドキアを対象地から外した上で、ギリシャのラコニア地方およびいくつかの島嶼部を対象地に加えて50棟ほどの現地調査を行った。それらのうち、写真測量を中心とした3次元計測を行った教会堂も30棟ほどとなる。このように分析に足る量の現地調査を概ね完了したものと言えるが、一方でコロナウィルスのパンデミックによって現地調査が行えなかった時期のためデータの分析そのものは遅れている。現在引き続き分析を行っている。
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ISPRS Annals of the Photogrammetry, Remote Sensing and Spatial Information Sciences
巻: X-M-1-2023 ページ: 125~131
10.5194/isprs-annals-X-M-1-2023-125-2023