研究課題/領域番号 |
20K14932
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
渕上 貴由樹 佐賀大学, 理工学部, 助教 (00530172)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 住宅近代化 / 2階建て / 2階座敷 / 夫婦寝室 / 住宅外観 / 洋館付き住宅 / 和様折衷 |
研究実績の概要 |
日本の住宅は、明治以降の近代的な住生活への追求により間取りの機能分化が進行し、日本の伝統的家屋の持つ部屋用途の曖昧さが徐々に取り払われていった。この流れの到達点の一つとして、現代核家族の標準的住まいとして高度成長期以降に普及した夫婦寝室と子ども部屋の家族個室を2階に集約した総2階建てがあげられる。本研究は総2階建ての住宅平面および住宅外観がモデルとして成立する以前の戦前期の2階建ての様子について検討する。具体的には戦前期の住宅書および建築専門雑誌に掲載された2階建て住宅の図版を対象とし、昭和初期まで設けられていた2階座敷を分析指標に用いることで、当時の2階の家族個室化の様子を明らかにすることを目的としている。 令和2年度は、当初は建築専門誌掲載図版の収集を軸とした作業を行いながら、保有済みの戦前期刊行住宅書(単行本)のデータ構築を進める予定であったが、「現在までの達成度」に示す通り、文献調査が計画通りに遂行できなかったことから、保有済みの住宅書を用いたデータ構築を中心に行った。1,2階に対する座敷配置および部屋用途の変化について分析した結果、1,2 階双方の座敷用途を「客間」として重複させるような接客本位の旧来的な間取りは大正9年まで掲載されていたが、次第に減少し大正後期~昭和初頭には1階座敷を「居間」、あるいは「座敷無し」にして、接客用途を2階座敷に特化するパターンが確認された。それと時期をほぼ同じくして1階応接間が用意されるケースも増えていた。またその一方で大正後期以降に2階座敷の部屋名を「寝室」とした逆の傾向も一程度確認できた。大正後期~昭和初期における2階座敷の傾向として接客用途の担保と家族個室化の進行が同居しているため、これらの住宅外観にどのような差異がみられるかを1階洋風応接間の付加状況とあわせながら検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度夏季に国会図書館および関東圏の大学図書館等での文献調査を予定していたが、コロナ禍に伴う施設利用制限が続いたことから研究計画の遂行に支障が生じた。また大学講義の遠隔化に対応するため、教材作成に多くの時間を割かれことから、当初予定していた研究時間を十分に確保することが出来なかった。こうした事由から、今年度は保有済みの戦前期刊行住宅書(単行本)の掲載図面を対象にしたデータ構築およびその分析にあたった。大正後期頃から2階座敷の部屋用途が接客用のみではなく、夫婦寝室にあてられるケースが散見されたため、2階座敷の扱われ方に一定の変化を確認することが出来た。しかしながらこれら分析に用いたデータは未実施の建築図面を多く含むことから、当時の実際の変化を厳密に示すとまでは言えない。次年度は実施住宅の図版収集に配慮しながら構築データの補完を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の文献収集を迅速に進めつつ、これまで得られたデータ結果との統合をおこなう。構築データから年代を横軸に、2階の家族個室化の度合いを縦軸としたマトリックスを住宅規模別に用意し、数量的に集中する箇所の図案の抽出とそれらの室構成と立面構成による比定を行いながら、最終的に2階建て住宅外観の典型パターンの模式化を試みる。 1.未収集の雑誌『住宅』(復刻版)、雑誌『建築世界』の図版収集を行い、掲載住宅の平面および住宅外観要素の抽出を行う。 2.戦前期住宅の現存遺構(2階建て,洋館付き住宅,都道府県・市指定文化財クラス)の所在状況の把握を完了させ、主要な住宅に対して図版収集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、他県をまたぐ移動制限や図書館の利用制限があったため、当初計画していた旅費を執行することができかった。また図書購入について雑誌『住宅』復刻版については第2期(11~20巻)、第3期(21~28巻)、第4期(29~36巻)の古書購入が可能であったため、当初計画よりも経費の使用が節約できたことがあげられる。次年度は引き続き文献資料購入および文献調査のための経費に充てる予定である。またリスト化された現存遺構のうち、調査可能なものがあればその調査旅費に充てることとしたい。
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