本研究の最終年度は、小樽の建物疎開跡地に引揚者がつくった市場と集合住宅の都市建築史研究、岐阜駅前に引揚者集団が中心になって形成が進んだ繊維問屋街とそれに関わる生産の空間史研究、東京の建物疎開についての計画史研究、東京新橋駅前の建物疎開の実施と戦後のマーケット建設による利用に関する都市史研究を実施した。 小樽の調査では、建物疎開跡地に建設された市場を防火建築帯として再開発し、現存する中央市場と中央卸市場の代表者に聞き取り調査をすることができ、戦後復興期の市場の形成と、そこからの建て替えの過程について復原が可能となった。 岐阜の調査では、引揚者集団が駅前につくった「ハルピン街」の移転地として建設された「大ハルピン街住宅」と、行政によって引揚者向けに建設された「厚生住宅」について、現存状況を悉皆的に確認した上で、現存する建物を実測調査した。この成果は2023年度の日本建築学会大会にて発表する。 東京の建物疎開の研究では、これまで明らかになっていなかった、東京都区部の建物疎開の実態について、第6次まで実施された建物疎開のうち第4次までを描いた図面について史料批判を行い、建物疎開と東京の都市空間の関係、前後の都市計画との関係を明らかにした。 新橋駅前のマーケットの形成に関する研究では、建物疎開の終戦直後の扱いと、それに影響されたマーケットの形成について明らかにし、東京における建物疎開とそこに建設されたマーケットの関係性について、具体的な事例から一般化を試みた。 以上の研究に加え、研究機関全体を通じては、東京の戦後復興期の露店の空間史、東京都区部全体での建物疎開と戦後のマーケット形成の関係性を明らかにした研究、福岡天神地区を中心とした戦後の商業空間の形成史について明らかにした。当初計画していた台湾と韓国での調査が実施できなかったが、その分、国内の研究を充実して実施することができた。
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