研究課題/領域番号 |
20K14954
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
尾亦 範泰 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 宇宙航空プロジェクト研究員 (80849258)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 因果推論 / 移動エントロピ / 時系列データ / センサ最適化 / ロケットエンジン / 異常検知 |
研究実績の概要 |
本研究は,データ駆動型の分析によって帰納的に導出される因果関係を用いて,産業機器をはじめとする複雑システムにおけるセンサ配置を最適化することを目標としている.本年度は,システムに配置された各センサから得られる時系列データを用いて,システムを構成する要素間の因果関係を分析する方法について研究開発を実施した.時系列データにおいて特徴的なパターンがしばしば表れることに着目して因果関係の指標を定量化する手法である,クラスタリング移動エントロピを提案した.この手法は,教師なし学習の手法であるクラスタリングによって時系列に存在するパターンを抽出し,経時的なパターンの出現頻度を表す確率分布をもとに,移動エントロピと呼ばれる因果関係の指標を情報理論的に算出する. 開発したクラスタリング移動エントロピによって,人工的力学系や音響の伝搬,燃焼器内の現象について正しく因果関係が推定できることを示した.特にロケットの打ち上げを模擬した噴流周辺に生じる複雑な音響場において,従来手法では捉えられなかった関係性を捉えることに成功した.さらに,モデル燃焼器内における燃料・酸化剤の伝搬に関して,物理的に妥当な因果関係と合わせて,未知の因果関係を複数検出した.これらの結果を,国内外の学会において発表したほか,AIAA Journal誌上において発表した. また,センサ最適化の実証をおこなう対象として考えていた,ロケットエンジンを対象に,センサ最適化を試行的に実施した.センサ最適化には因果関係を用いず,異常検知の性能をもとに最適化する手法を開発して使用した.その結果,ロケットエンジンの燃焼試験においては急激な状態変化を短時間のうちに繰り返すため,定常的な因果関係が確立されない点が大きなハードルとなることが分かった.この問題点を研究期間内に解決することは困難であると考え,別の対象での展開を模索中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
因果推論の手法を計画どおりに開発し,当該成果を各学会における発表とAIAA Journal誌上で発表できたため.また,ロケットエンジンに対するセンサ最適化の予備的な実験の結果から課題が浮き上がったが,早期に発見できたため,適用対象の変更によって対処が可能であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
産業機器のような複雑システムにおける,因果関係を利用したセンサ配置の最適化手法についての開発を予定通りに進める計画である.当初の計画では,本年度開発した因果推論の手法をベースとして,因果のネットワークにおけるハブを重要なセンサとして選択する戦略を考えていたが,異常検知の性能をもとにセンサ最適化を実施した予備実験の手法を利用する戦略も考慮する予定である. また,当初の計画においては最終的にロケットエンジンの燃焼試験において,開発した手法を試行する予定であったが,当該のロケットエンジンの試験では,定常的な因果関係が確立されていないことが分かった.そのため,実際に手法を適用する対象として,別の対象を模索しており,調査・調整中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた国内・国際学会がCOVID-19の拡大によりオンライン開催になったため,旅費が全額執行できなかった.次年度以降に学会や打ち合わせに参加するための旅費や学会等のオンライン化に伴って必要となる物品費として使用予定である. また,物品購入についても,研究代表者の勤務先での身分・勤務地が変更になる都合から,購入を次年度に持ち越したため残額が生じている.
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