本研究の目的は,データ駆動型の分析によって帰納的に導出される因果関係を用いて,産業機器をはじめとする複雑システムにおけるセンサ配置を最適化する手法の開発である.特に,ロケットエンジンを対象として実証することを最終的な目標として設定した. まず,各センサの時系列データからセンサ間の因果関係を分析する方法について研究開発を実施し,時系列に表れる特徴的なパターンに着目して因果関係を定量化する手法,クラスタリング移動エントロピを提案した.開発したクラスタリング移動エントロピによって,人工的力学系や燃焼器内の現象,ロケットの打ち上げを模した音響の伝搬などについて正しく因果関係が推定できることを示し,これらの結果を査読付き英語学術論文誌AIAA Journal誌上において発表した. さらに,センサの配置を最適化するフレームワークの策定にも取り組んだ.特定の故障モードを検知する際に必要な計測センサを絞り込むことを考え,教師あり学習である線形判別分析を利用して故障を検知する際の性能が向上するセンサの組み合わせを貪欲法によって探索した.この手法を,液体ロケットエンジンにおける重大な故障モードの一つである推進剤の漏洩を例にシミュレーションデータを用いて検証した.この結果は,査読付き英語学術論文誌Acta Astronautica誌に掲載された. これらの因果関係の分析手法とセンサ配置最適化の方法を組み合わせることで,因果関係を考慮したセンサ配置の最適化を実施する計画であった.しかしながら,当初より使用を計画していたロケットエンジンのデータに対して,この方法では適切な手法を構築することが難しいことが判明した.そこで,因果推論や離散最適化といった本研究と関連性の深いトピックが議論される人工知能分野の国際学会に参加して開発した手法の良し悪しを検討し,今後の展開などについて専門家と議論を深めた.
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