本研究は、原子状酸素(AO)照射による高分子材料表面改質技術の開発と応用に向け、突起構造形成メカニズムを明らかにすることを目的とし、2つの実施項目「(A)突起形状の支配因子の導出」、「(B)突起形状形成メカニズム・制御の検討」からなる。 研究期間において、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)では、AO照射に伴う浸食率および化学結合の変化が同様にも関わらず、生じる突起構造の大きさや数密度が明らかに異なることを見出した。PEおよびPPには、PSと比べて大きく少ない突起構造が再現性よく形成された。 このことが高次構造(自由体積、熱運動、結晶性など)の差異に起因すると考え、(1)陽電子消滅寿命法(PALS)、(2)サンプルへの温度付加、(3)結晶性の異なるサンプルによる評価を行った。(1)PALS評価により、3種類の高分子は自由体積空孔径(PS < PP < PE)およびAO照射で生じる酸化層厚(PS < PE、PP)が異なることがわかった。空孔が大きいほどAOが深く浸入し、突起構造の形状に影響したものと考えられる。(2)全ての高分子について、サンプル温度は浸食率に影響を与えなかったものの、温度上昇に伴い突起構造が大きく少なくなることがわかった。温度により決定づけられる自由体積または熱運動のいずれかが、突起構造の形状を支配している可能性が高い。(3)異なる延伸条件で作製したPPサンプルを用いることで、結晶スケールの構造の違いが突起構造にそれほど影響しないことがわかった。なお(2)および(3)は、最終年度に得られた成果となる。 以上により、本研究では高分子の高次構造(自由体積や熱運動)が突起構造の形状を支配することを、実験的に示すことができた。温度や添加物などで高次構造を調整することで、突起構造の形状や表面物性をAO照射により制御できることが期待される。
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