研究実績の概要 |
本研究は,毛細管力駆動の多孔質体熱流動系における核沸騰現象および濡れ制御特性を明らかにし,0.01 W/cm2級の低熱流束条件で動作可能な,超低熱流束ループヒートパイプ(LHP)技術の確立を目的とする。今年度は,昨年度に構築した顕微ハイスピード熱流動観察装置を用いた小型多孔質体試料の核沸騰現象可視化に並行して,デバイスレベルでの技術実証に注力して取り組んだ。昨年度までの研究で,蒸発器多孔質体溝幅が熱伝達性能に与える影響の評価結果から,低熱流束条件では溝幅が大きい条件(1.0 mm)で高い熱伝達性能が得られることを明らかにした。さらにこの傾向は,伝熱表面の濡れ性制御の有無,すなわち,表面微細構造の有無に因らないことも明らかとなった。そこで,製作技術制約の観点から,今年度は,表面微細加工を有さない蒸発器容器と1.0 mm幅の蒸気溝を有するステンレス多孔質体の組合せで低熱流束LHPを構築し,作動流体を窒素とした条件で実証試験に取り組んだ。LHP熱輸送距離は2 mとし,宇宙環境を模擬した低温熱真空環境内部で水平姿勢で試験を実施した。その結果,最小熱負荷0.5 W, 熱流束0.02 W/cm2での動作が確認された。目標性能に及ばないものの,従来のLHPに対して極めて低い熱流束条件での動作が本研究によって実証された。加えて, LHPと同じ蒸発器構造を有するキャピラリーポンプループについては,多孔質熱流動観察結果に基づいて,動作前に予備加熱を蒸発器に実施することで,従来と比較して低熱流束での起動が可能となることを明らかにした。今後は,システムレベルでの温度・流体挙動のデータを体系的に取得し,システムレベルの熱流動モデルを高精度化する。これと同時に,ハイスピード多孔質熱流動観察装置を用いて,さらなる低熱流束化が可能な多孔質形状の提案・実証に取り組む。
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