研究課題
本研究の目的は、液相反応に関する詳細反応モデル(素反応・その速度定数・化学種全ての熱力学データ)構築技術を確立し、高速過渡的な物理化学現象である宇宙機用推進剤の自着火現象を解析し、その安全制御を目指すものである。特にヒドラジン/四酸化二窒素(N2H4/NTO)推進剤の自着火反応を第一原理よりモデル化する技術を構築し、その機構解明を目的とした.既往の研究等を参考にN2H4/NTOの自着火反応に関する素反応群を抽出し、化学種の熱力学データおよび速度定数を連続誘電体モデル(PCM)を量子化学計算(QM)に組み込んだQM/PCM法を用いて解析し、液相詳細反応モデルを構築した.当該モデルを用いてN2H4/NTOの自着火反応をシミュレーションしたところ、実験的に報告されていたN2H4/NTOの極めて短いガス化反応時間を説明することに成功した。上記検討の過程で、従来法のQM/PCM法に関して、その熱力学データ(特にエントロピー)推算精度に課題があることが改めて明らかになった。予てより純液体に関しては、周囲分子によって制限される液相分子の並進/回転運動を理論的に補正する熱力学データ推算方法を構築済みであったが、今年度はこれを溶液に展開する検討を行った.その結果、新たに溶液特有の考慮すべき理論的課題(溶液標準状態の反映や溶媒分子の配向)があることがわかった。これは次年度以降の検討課題とする。反応機構検証に向けた実験技術として、熱分析と高分解能質量分析計を組み合わせた手法を構築し、これを高含窒素系化合物の反応へ適用させ、有効性を示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍により、実験的検討の進捗に影響を受けたが、研究は概ね順調に進捗したと判断する。その理由として、従来手法に基づくものであるが、溶媒効果を考慮した量子化学計算(QM/PCM法)を用いてN2H4/NTOの自着火反応の詳細反応モデル化を達成できた。当該モデルは、これまでの詳細反応モデルでは説明できなかった極めて短いガス生成時間を半定量的に説明し、N2H4/NTOの液相反応が気相反応とは全く異なる反応経路で進行することを示すことができた。当該成果は、燃焼分野のトップジャーナルであるCombustion and flame誌に受理・公開された.当該モデルは反応性流体シミュレーションとの連成など、宇宙機設計におけるさらなる工学応用も期待できる。反応機構の実験的検証技術として熱分析と高分解能質量分析計を組み合わせた手法を構築し、これをN2H4/NTOのような高含窒素系化合物の反応へ適用させ、その有効性を示すことができた。当該成果も、国際学術誌Journal of Analytical and Applied Pyrolysis誌(Q1)から公開された。QM/PCM法の改良検討に関して、熱力学データ(特にエントロピー)推算について純液体から溶液へ展開する上で、当初の想定よりも理論的課題が多いことがわかったが,その解決の見通しも得られつつあり、次年度以降に本格的に検討が進むものと考える。上記の通り、研究初年度にN2H4/NTOの自着火反応の詳細反応モデル化が達成できたことに加えて、それに関する成果報告が活発に行われている点から順調に進捗したと判断した。
従来QM/PCM法の熱力学データ(特にエントロピー)推算精度を改善する理論モデルについて溶液系への理論展開を行う。以前より純液体に関しては、周囲分子によって制限される液相分子の並進/回転運動を理論的に補正する熱力学データ推算方法を構築済みであった。しかし、これを溶液に適用させるには溶液標準状態の反映や溶媒分子の配向など、新たに解決すべき課題がある。混合のエントロピーや溶媒和圏の分子の配向エントロピーを考慮することで、理論値は実験値と良好に一致することを見出しており、次年度は当該エントロピー値を理論的かつ簡便に推定する方法について検討を深める。構築した詳細反応モデル自体の実験的検証も引き続き必要である。申請書に示した通り、当該モデルを硝酸ヒドラジン水溶液の分解における化学種濃度の時間変化データを用いて検証を行う予定であった。コロナ禍の影響により、引き続き実験的検討が停滞することが予想される。その場合は、文献情報と最低限の実験結果を基に検証を行う検討スキームを構築してからこれに当たる予定である。
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Combustion and Flame
巻: 229 ページ: 111389~111389
10.1016/j.combustflame.2021.02.035
Journal of Analytical and Applied Pyrolysis
巻: 151 ページ: 104918~104918
10.1016/j.jaap.2020.104918