研究課題/領域番号 |
20K14997
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
松永 浩貴 福岡大学, 工学部, 助教 (70759240)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ロケット推進薬 / 高エネルギー物質 / 化学安定性 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
高エネルギー物質を基剤とした"高エネルギーイオン液体(Energetic Ionic Liquids, EILs)"は,高密度・低蒸気圧という特有の物性により,超小型人工衛星に適した高性能かつ取扱いが容易な新規推進剤となることが期待される.本研究では,高エネルギー物質アンモニウムジニトラミド(ADN)をモノメチルアミン硝酸塩(MMAN),尿素と共融させて調製したEILsをターゲットとし,安全利用に向けた安定性評価の枠組みを構築することを目的とした. 初年度は,EILsを劣化させる因子の洗い出しおよび影響度の把握を目的とした.EILsの合成,貯蔵,取扱時に想定される劣化シナリオについて検討し,熱分解,タンク・配管材料の溶出,吸湿に着目することとした.それぞれの因子による劣化の有無を実験的に確認し,それを基にロケット推進薬としての性能(比推力)への影響を化学平衡計算により解析した. 熱分解の反応機構および速度は,加速試験(定速昇温時の熱挙動,生成ガスの分析)とシミュレーションソフトにより解析した.タンク・配管材料溶出の評価のため,小型人工衛星での使用が見込まれる材料(ステンレス,チタン合金,フッ素樹脂,ゴム)の試験片をEILsに浸し手恒温槽に貯蔵し,変化を観察した.吸湿性は調湿環境下での質量の変化により評価した. 貯蔵中に進む熱分解反応はADNが硝酸アンモニウムへの分解であり,分解が大きく進行すると着火性が低下したが,分解速度解析から性能変化を予測したところ,室温での貯蔵では劣化はほぼ進行しないことが推定された.タンク・配管材料の溶出は1か月の貯蔵試験では観測されず,EILsとの反応はほとんどないことがわかった.EILsは吸湿性が高く,性能の低下に大きく寄与することが示された.現在は因子が複合した場合の劣化についての解析および実環境に近い条件での安定性評価手法の構築を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の計画では,EILsの劣化に寄与する因子を明らかにすることが目的であった.ロケット推進薬として扱われる際に想定される劣化シナリオ(熱分解,タンク・配管材料の溶出,吸湿)を洗い出すことができ,加速試験によりそれぞれの劣化が進行する条件について知見を得ることができた.また,各種分析や化学平衡計算プログラムの使用によりそれぞれの劣化の際に進行する化学変化,物理変化のメカニズムや速度の解析,着火のしやすさやロケットの推進性能(比推力,特性排気速度)への影響の推定を行うことができ,EILsを取扱う際の指針が得られた. 学外への移動制限の関係で計画していた外部機関における高感度熱分析や国際会議における外部発表は行うことができなかったが,初年度に計画していた検討をほぼ予定通り進めることができ,国内学会で成果を発表するに至った.さらに,次年度の計画である実使用環境に近い条件でのEILsの安定性評価手法の構築を開始するための知見が得られた.したがって本研究は,おおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,初年度からの継続として洗い出した因子が複合した場合の劣化について検討を行う.特に吸湿の影響が大きかったことから,水分と他の劣化因子との組み合わせについて考慮する予定である.そして,各因子および複合因子による劣化が及ぼす燃焼特性への影響を実験的に評価する.また,実環境に近い条件での安定性評価を行い,ここまで行った加速試験の結果と比較することで,試験法の妥当性を評価する.必要に応じて試験法に改良を加え,実環境での変化を再現できる加速試験法および各因子を考慮した劣化予測式の確立を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
学内で行う研究活動については予定通り進行したが,発表を予定していた国内学会や国際会議の多くが中止または延期となり,旅費の使用が無かったことから繰越金が生じた.繰越金は,令和2年度に延期となった学会における発表に必要な経費として使用する計画である.
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