研究課題
本研究では走査透過型電子顕微鏡(STEM)の一手法である微分位相コントラスト(DPC)を用いて原子スケールの電場を可視化し、局所領域の化学結合情報を抽出することを目的としている。電子が試料中を透過する際には複数回散乱が起きるために、原子分解能で取得したDPC STEM像から原子スケールの電場を直接的に定量することは難しい。そこで本研究では多重散乱の様子をマルチスライスSTEM像計算によってシミュレーションすることで、実験で得られたDPC STEM像から原子スケールの電場を精度よく定量する手法の開発に取り組んでいる。本年度は、シミュレーションによって得られたノイズの存在しない理想的なDPC STEM像をテストデータとして、電場定量アルゴリズムの開発に取り組んだ。多重散乱を仮定せずにテストデータから電場を定量し、マルチスライスSTEM像計算を実行し、テストデータとシミュレーション結果を比較することによって、電場定量の精密化を繰り返すことによって、多重散乱存在化での高精度電場定量アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは,試料厚みがおおよそ10 nm程度までは有効であることが確認された。また、実際の実験データにはノイズがのるため、ノイズがある場合に対する取り扱い方法を考案しプログラムに実装し、実際の実験データに対して適用する準備を整えた。また、ピクセル型検出器や分割型検出器など多様な検出器によるDPC STEM像に対する適用可能性について検討を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は以下の手順で進める計画としている。1.反復アルゴリズムによる原子電場推定プログラムを作成する。2.DPCの計算像をテストデータとして、アルゴリズムの有効性を検討する。3.電子状態が既知の試料を用いて、化学結合の可視化の実験的有効性を検討する。4.界面などの局所構造において、化学結合の可視化を試みる。以上のうち1,2について本年度に達成することができたため、おおむね順調に進展しているものと判断できる。
当初計画通り、開発したアルゴリズムを実験データへと適用する。実際の実験データにはノイズが存在するため、アルゴリズムを適宜改良していく。また電場定量結果を第一原理計算などと比較することによって化学結合の可視化可能性について検討していく。
当初計画よりも安価に物品が購入できたため、次年度使用額が生じた。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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