本研究では、Alに微量のMgおよびSi元素を添加した6000系Al合金を対象に、実用的に重要な時効処理初期段階の力学的特性変化に影響を及ぼす溶質ナノクラスターの構造を、電子顕微鏡法を用いた直接観察により解析することを目的としている。 令和2年度は「観察に適した組成・熱処理条件の選定」、「ナノクラスター等の局所欠陥構造の電子顕微鏡法による直接観察可否の検証」に取り組み、①については、硬さ測定を中心とした物性測定により準安定相の状態変化を推定し、観察に供する試料の作製条件を選定した。 欠陥構造直接観察については、適切な結像条件に設定した環状暗視野検出器を用いる事により、時効初期に形成されるナノスケール溶質クラスターの空間分布を直接観察可能であることを見出した。また、溶質分布を直接検出可能な3次元アトムプローブ法(3DAP)による評価を実施し、マキシマムセパレーション法による解析により平均的な溶質SROを解析した。 令和3年度は、「機械学習を用いた3DAPデータ中の溶質SRO解析」、「3DAP・STEM・第一原理計算によるクラスター構造モデルの解明」に取り組んだ。熱処理条件の異なる試料から取得した3DAPデータに対して機械学習手法により時効初期に形成される溶質SROの特徴抽出を行い、熱処理条件によってSi元素の秩序度が変化することを見出した。第一原理計算を用いたエネルギー評価により、Si元素を含む溶質SROが空孔のシンクサイトとして機能することが示唆され、時効初期の析出物形成に対して負の効果を発現すると考えられた。また、得られた実験・計算データを統合し、溶質クラスターがAlを多数含む希薄な構造であることを見出し、実験結果を再現するクラスター構造モデルを構築した。
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