セラミックスは、硬度・耐熱性・耐食性に優れ、超高圧・超高温・超腐食などの極限環境で「構造材料」として活躍している。一方で、脆く破壊靭性に乏しい点は構造材料としては致命的な欠点であり、セラミックス研究における最大の課題となってきた。そこで本研究は、幅広い温度・環境において適用可能であり、硬度を犠牲にせず靭性を向上させることが可能な「ナノ双晶強化」に着目し、ナノ双晶をもつセラミックス粉末を、欠陥が回復しない短時間で高速焼結することによって、高硬度・高靭性なセラミックスを創出することを当初の目的として実施された。しかし、本研究期間中に、高速焼成技術である「フラッシュ焼結」によって作製されたセラミックスから、当初想定していなかった弾性軟化現象が偶然発見されたことを受けて、主にセラミックスに弾性軟化をもたらす非弾性効果の理解に向けた研究へと方針転換を行った。2022年度までに、フラッシュ処理を施したY2O3安定化ZrO2において、試験速度に強く依存した弾性軟化挙動が現れることが確認された (H. Masuda et al. Acta Materialia 2022)。この挙動は、主に高分子材料で見られる粘弾性に類似しており、フラッシュ処理によって材料中に導入された点欠陥が外力のもとで可逆運動する非弾性現象に由来すると考えられる。その後、フラッシュ処理によって非弾性が発現する材料系の拡張を試み、2024年度までに非ドープ型のルチル型TiO2においても同様の現象が確認されている (H. Masuda et al. Scripta Materialia 2024)。以上の結果は、当初の目的設定からはやや外れているものの、これまで困難とされてきた弾性率制御や、セラミックスへの柔軟性の付与など、新たな材料機能の創出につながる重要な成果だと考えられる。
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