研究課題/領域番号 |
20K15021
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
宮田 全展 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60815736)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リン化物 / 単結晶 / 熱伝導率 / 第一原理計算 / フォノン |
研究実績の概要 |
Ag-Pクラスター構造を有するリン化物Ag3P6Si3Sn2,Ag3SnP7のフォノン輸送メカニズムについて実験,理論の両アプローチによる調査を行った. フラックス法を用いたAg3P6Si3Sn2の単結晶合成を行い,単相試料および単結晶試料の最適合成条件を明らかにした.結晶の成長メカニズムについてSEM像等から詳細に検討し,成長モデルを提唱した.得られた単結晶の電気伝導率,ゼーベック係数,熱伝導率の測定に成功し,室温で金属的伝導及び低い格子熱伝導率を示すことを実験より明らかにした.過去に,Ag3P6Si3Sn2の単結晶の合成及び実験による物性評価は,報告例がなく,Ag-Pクラスター構造を有するリン化物のフォノン輸送メカニズムの解明において,意義深い. 第一原理計算ソフトOpenMXを用いた第一原理計算による構造安定性の検討により,Ag欠陥の存在が予測され,実験試料の金属的伝導の起源である可能性を示した.詳細なフォノン輸送を明らかにするため,フォノン計算コードAlamodeを用いて,フォノンの分散関係,状態密度を計算し,低周波数領域からAg等の光学フォノンモードが支配的であり,室温域でフォノンの平均群速度が低減することを示した. 3次の原子間力定数までを計算で考慮し,3フォノンの散乱強度からフォノンの寿命を計算することで,格子熱伝導率のフォノンのMFPに対する累積格子熱伝導率を得た.計算から得られたAg3P6Si3Sn2単結晶の累積格子熱伝導率は室温において実験値と比較して高く,欠陥によるフォノン散乱の寄与がAg3P6Si3Sn2のフォノン輸送に重要である可能性を示した. 上記の研究業績は,Ag-Pクラスター構造が及ぼすフォノン輸送メカニズムを実験・理論の両面から明らかにする上で意義深いものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初では,実験においてAg-Pクラスター化合物Ag3P6Si3Sn2の単結晶作製及び構造解析を実施する予定であったが,それに加えて単結晶の電子物性及び熱伝導率の測定を行い,Ag3P6Si3Sn2が室温で金属的伝導及び低い格子熱伝導率を示すことを実験より明らかにした. 理論では,Ag3P6Si3Sn2の構造安定性について第一原理計算を用いてDFTの範疇で計算を行い,欠陥が生じやすいことを明らかにし,実験結果ともよく対応することを明らかにした.得られた電子密度から,実空間におけるAg3P6Si3Sn2の電子分布を求め,イオン結合及び金属結合が共存した状態であることが分かり,計画していた実施内容を達成することができた.加えて,電子及びフォノンの分散関係・状態密度を理論的に計算することに成功し,Ag3P6Si3Sn2が金属的伝導を示し,Ag等の比較的低いエネルギーのフォノンモードが熱伝導に寄与していることを明らかにした. 以上のことから,計画以上に研究は進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,申請書に記載した通りに研究を推進する予定である.実験に関しては,単結晶Ag3P6Si3Sn2のラマン分光測定やTG-DTAによる熱安定性について調査し,より詳細なフォノン物性及び構造安定性について明らかにする予定である. 理論計算においては,Ag3P6Si3Sn2のラマンスペクトルの計算及び,4次の非調和項を取り入れた自己無撞着フォノン計算を実施し,フォノン物性の実験との対応及びフォノンの非調和性についてより詳細に明らかにする予定である. 課題として,Ag3P6Si3Sn2の結晶構造の体心位置にP原子を導入したAg3P6+xSi3Sn2試料の合成であり,仕込み比通りの溶融法やフラックス法では合成が困難であることが予想される.対策としては,Pを過剰に導入することでP蒸気圧を上げて合成する方法や,化学気相輸送法等の新しい合成手法を取り入れることで合成することを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,3ゾーン式セラミック電気管状炉 一式(1,035,100円)がR3の3月末納品予定であったが,業者の手違いにより納品がR3年の4月に遅れたため,予算執行がR3年度へずれこんだためである.使用計画としては変更はなく,R3年度に改めて,予算使用額として計上する.
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