研究実績の概要 |
Ag-Pクラスター構造を有するリン化物Ag3SnP7, AgP2, Ag3P6Si3Sn2のフォノン輸送メカニズムについて実験,理論の両アプローチによる調査を行った. 化学気相輸送法により,Ag3SnP7の安定的な合成方法を確立した.Ag3SnP7はPが鎖状に連なる特殊な結晶構造を有しており,実験より,リン化物の中でも低い格子熱伝導率を示すことを明らかにした.この低い格子熱伝導率の詳細な起源を明らかにするため,第一原理計算コードOpenMXとフォノン輸送計算コードAlamodeを用い,3次だけでなく4次の非調和項を考慮した自己無撞着フォノン計算による詳細な解析を行った.申請者の調べた限りでは,OpenMXを起点とした上記の計算は世界でも前例がない.Ag3SnP7のフォノン輸送現象において,4次の非調和項の寄与が実験の格子熱伝導率を記述する上で極めて重要であることが分かった.Ag3SnP7の低い格子熱伝導率の起源は,結晶中の4fサイトのAg原子が大きな非調和振動モードを示し,強いフォノン-フォノン散乱であることを明らかにした.他の無機材料物質のフォノン輸送特性との比較から,Ag3SnP7はSnSeやクラスレート化合物に匹敵する高いフォノン-フォノン散乱確率を有することを示した.これらの研究成果は「Journal of Applied Physics, 130, 3, 035104, 2021」に掲載され,Editor's pickにノミネートされた. 上記の研究業績は,Ag-Pクラスター構造が及ぼすフォノン輸送メカニズムを実験・理論の両面から明らかにする上で意義深いものである.
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今後の研究の推進方策 |
本研究において,Ag-P化物を安定的に合成する手法の確立が一つの課題であった.令和四年度に入り,溶融法や化学気相輸送法に加えて,遊星型ボールミルを用いたメカニカルアロイによる非平衡下での合成が一定の成果を上げ始めた.本研究では,引き続きAg-Pクラスター化合物のフォノン輸送現象を実験と理論の両面から調査するとともに,メカニカルアロイによる非平衡下での合成を活用したAg-Pクラスター構造のマテリアルデザインを行うことで,Ag3P6Si3Sn2, Ag3SnP7, AgP2中のAg-Pクラスター構造のフォノン輸送現象における役割をより詳細に明らかにし,研究成果を論文や学会発表に向けてまとめて行くことを予定している.
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