研究実績の概要 |
Ag-Pクラスター構造を有するリン化物Ag3SnP7, AgP2, Ag3P6Si3Sn2のフォノン輸送メカニズムについて実験,理論の両アプローチによる調査を行った.Ag3SnP7はPが鎖状に連なる特殊な結晶構造を有しており,フォノン輸送現象において,4次の非調和項の寄与が実験の格子熱伝導率を理解する上で極めて重要であることを明らかにした. Ag-Pクラスター構造を持ち,より単純な組成であるAgP2について,実験と第一原理計算の両面から,AgP2が極めて低い格子熱伝導率を示し,その起源がAg-Pクラスター構造の結合異方性であることを明らかにした.これにより,低い格子熱伝導率を示すリン化物のマテリアルデザインとして,結合に異方性を有するAg-Pクラスター構造という新たな材料設計指針を提案することに成功した.本研究成果により,第19回日本熱電学会学術講演会の優秀講演賞を受賞した. 上記のAg-Pクラスター構造を有するリン化物の知見をもとに,複雑な結晶構造を有するリン化物Ag3P6Si3Sn2のフォノン物性を実験と理論の両面から協奏的に調査した.Snフラックスによる自己フラックス法を用いた単結晶Ag3P6Si3Sn2の合成法を確立し,室温における格子熱伝導率がリン化物中でも極めて低いことを明らかにした.Ag3P6Si3Sn2は4次の非調和項を考慮することでAg-Snのフォノンモードが有限温度で低周波数側にシフトするフォノンのソフトニングが生じ,低い格子熱伝導率を示すことで知られるリン化物Ag6Ge10P12よりもさらに格子熱伝導率が低くなることを明らかにした.以上,本研究により,複数の物質についてAg-Pクラスター構造が及ぼすフォノン輸送メカニズムを実験・理論の両面から,多角的に明らかにすることに成功し,Ag-P化合物という新たな熱電材料の分野の先駆けとなった.
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