研究課題/領域番号 |
20K15023
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松井 公佑 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (90754309)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | XAFS / 酸化鉄 / 水熱合成 / Crドープ |
研究実績の概要 |
酸化物は、触媒・磁気・光学・固体電解質などの分野で多用されており、その特性は単純な結晶配列だけでなく格子内酸素の活性化条件 (量・温度) を明らかにすることで、材料の相転移やレドックス活性など材料の基本的特性を明らかにできる。本研究では、様々な化学組成、酸化状態、多形を有する酸化鉄を例に、結晶の熱的安定性を向上させるドーパントの効果を議論し、その場XAFS解析により昇温反応過程における結晶相転移の可視化を検討した。 水熱反応により合成した酸化鉄は、数十ミクロンの大型樹状形状を有し、TEM-SAED解析より単結晶成長が確認され、高分解能STEM-EDSでは結晶内をCrが均一に分布している様子が観察された。水素と酸素による昇温還元・酸化反応では、Fe3O4とFe2O3間の構造変化に対応する化学量論の酸素の吸蔵放出が確認された。In-situ Fe K端XAFSにより酸化鉄樹状結晶の昇温酸化過程を解析したところ、Crをドープしていない酸化鉄では、Fe3O4からγ-Fe2O3への酸化とともに、熱分解により一部がα-Fe2O3に変化しており、不可逆な反応となっていることが明らかになった。一方、Crを10%をドープした酸化鉄では、100℃程度の広い温度範囲でγ-Fe2O3の単一相が安定化されることが明らかになり、この温度域ではFe3O4との安定的なレドックスが実現されることがわかった。また、高温域でもα-Fe2O3の生成が抑制されており、より小さなイオン半径を有するCr3+が酸化鉄骨格内に均一に分散することで、格子の圧縮ひずみが生じ、酸化鉄のレドックス特性がより安定的にサイクルできるようになったことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触媒・磁気・光学・固体電解質などの分野で多用されている酸化物における相転移やレドックス活性など材料の基本的特性を明らかにするため、様々な化学組成、酸化状態、多形を有する酸化鉄を例に、結晶の熱的安定性を向上させるドーパントの効果を議論し、その場XAFS解析により昇温反応過程における結晶相転移の可視化を検討した。 また、ガス流通下でのその場XAFS計測が可能な計測用セルの整備を進めた。透過、蛍光XAFS計測の両方に対応した2次元イメージング用のセルであり、試料加熱中でもセル本体に冷却水を循環させることで、自動ステージのスキャン動作に問題が無いよう改良を加えた。開発したセルを使用し、昇温反応過程のその場XAFS計測を実施し、酸化鉄の相転移や酸化に対応するスペクトル変化を鍵に、その定量的解析を実現させた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、1000℃までの雰囲気加熱が可能であり、且つ3次元のCT-XAFS計測に対応した反応セルの開発を進めているところである。試料直下にSiウエハーを敷き、これに直流電流を導入することで、Siウエハーを抵抗加熱してヒーターとして活用し、試料を加熱する。Siヒーターのテストは赤外線放射温度計でテストしており、1000℃近辺まで問題なく加熱できることを確認した。現在、試料の加熱に耐える試料ホルダーの設計を進めており、これらが作成でき次第、セルを組み立てて、テスト計測を実施予定である。
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