触媒や電池などの固体材料は、材料単体の反応性や機能だけでなく、これらが複数組み合わさったときに発現される、複雑な反応・劣化・溶出の様式がシステム全体の性能に密接に関連する。このような複雑な化学反応を捉えるためには、デバイスなどのシステム実機に対して、稼働中の「その場」状態を非破壊、且つ実次元でイメージングすることが求められる。本研究者らは過去にコンピュータートモグラフィーXAFS法(CT-XAFS)を通じた、固体材料内の3次元化学イメージングを実現させており、本研究ではこの計測技術をさらに発展させ、材料の希薄元素の分布や化学状態を可視化するための走査型蛍光CT-XAFS法の開発を進めた。数百ナノメートルサイズに集光させた硬X線を試料表面で2Dスキャンしながら試料から放出される蛍光X線を捕捉し、この計測をX線エネルギーと試料回転角方向にスキャンすることで、固体高分子形燃料電池(PEFC)実機に対して、ガス拡散層や触媒膜部分に微量、ラジカル捕捉剤として添加されたCeラジカルスカベンジャーの分布や酸化数を3D可視化することに成功した。添加されたCeの半数程度が3価に変化し、全体として3.5価で分布していることを突き止めた。 また、CT-XAFS法のスペクトル計測を高精度化させ、世界で初めてEXAFS領域の解析を実現させ、PEFCのPt/Cカソード触媒の劣化挙動に関して、Pt-Pt結合やPt-O結合の配位数を3次元可視化することに成功させた。合計9種類の構造パラメータに関する3Dデータが得られ、これらをヒストグラム情報としてまとめたところ、PEFCの劣化は試料の立ち上げ時の反応ムラが劣化後もそのまま残る様子を可視化することに成功した。
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