研究実績の概要 |
本研究は鉛フリー圧電体(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3の高い圧電性能の起源を原子レベルで解明することを目的としている。そのために、特定元素周りの3次元原子配列を可視化できる蛍光X線ホログラフィー(XFH)を実施した。 まず、BaTiO3にCaを添加した(Ba0.9Ca0.1)TiO3の単結晶を準備し、XFHによってBa及びCa周りの局所構造観測を行った。得られた結果からBa周りの原子像は等方的な形状をしていたのに対し、Ca周りでは原子像が特定の方向に伸びた形状をとることが分かった。これはCaイオンが大きくシフトしていることを示している。原子像形状を詳細に解析することで、Caイオン及び周囲の原子の変位の定量評価まで行うことができた。この変位は、CaイオンがはBaイオンよりも半径が小さく周囲に隙間が生じることに起因し、圧電性能向上の要因であると考えられる。 次に、Zrを微量に添加した(Ba0.798Ca0.202)(Zr0.006Ti0.994)O3単結晶のXFH測定を実施しZr周りの局所構造を観測した。その結果、Zrに最も近いカチオンであるCaやBaはZrから離れる方向に変位する一方、一つ離れたカチオンであるTiはZrに近づく方向に変位することが分かった。Zrは母材のTiよりもイオン半径が大きいため、周辺の格子を押し広げ、その結果生じたスペースを利用してTiイオンが変位したと推察される。このような変位も圧電性能向上に寄与していると考えられる。 さらに、Zrをより多く添加した試料についてはXFHで必要となる単結晶の育成が難しいことから、SPring-8の提供するマイクロビームX線を多結晶中の結晶粒に照射し単結晶と同等のデータを得ることを試みた。その結果、単結晶に特有のコッセル線と呼ばれるバターンを確認し、多結晶のXFH測定の道筋をつけることができた。
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