研究課題/領域番号 |
20K15026
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
加藤 匠 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60867836)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シンチレータ / 透明セラミックス |
研究実績の概要 |
近年、シンチレータの高性能化を実現するため、より複雑な化学組成のシンチレータが開発されているが、それらの材質はいずれも単結晶である。一方で透明セラミックスシンチレータに関する研究において、これまではCe添加Gd3Al2Ga3O12に代表されるガーネット構造の酸化物のみが扱われてきた。よって、複雑な組成を持つハロゲン化物透明セラミックスのシンチレータ応用に関する研究は未開拓である。そこで本研究の目的は、ハロゲン化物透明セラミックスのシンチレータとしての可能性を検証するため、三元系フッ化物の透明セラミックスシンチレータを開発する事とした。 当該年度は手始めに、単結晶では既にシンチレーション特性が報告されているLiBaF3に着目し、透明セラミックスの合成を試みた。合成には放電プラズマ焼結法を用いることで、目的物質の合成とセラミックスの焼結を一度に行うような焼結条件を見出した。最終的には可視領域で約20%の拡散透過率を持つセラミックスを焼結し、粉末X線回析により目的物質の合成に成功していることを確認した。このLiBaF3セラミックスにX線を照射するとLiBaF3単結晶と同様に自己束縛励起子に起因した発光を呈することを確認した。また、発光中心としてCeを添加したLiBaF3透明セラミックスを合成したところ、拡散透過率は5%程減少したが、Ce3+イオンの5d-4f遷移由来の短寿命のシンチレーションを観測することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放電プラズマ焼結法を用いることで、透明性を持つLiBaF3セラミックスを合成し、無添加では自己束縛励起子に、Ce添加では5d-4f遷移に由来するシンチレーションの検出に成功した。一方でこれらの熱刺激蛍光特性を評価したところ、放射線を照射するとこれらのサンプルは室温から50℃付近にグローピークを有し、強い残光を示すことが確認されたため、シンチレーション特性を向上させるにはエネルギー輸送効率において改善の余地があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
シンチレーション発光量を算出するため、LiBaF3セラミックスのパルス波高スペクトルを測定したこところ、明瞭な光電吸収ピークは得られなかった。これは作製したサンプルの強残光および低透過率が原因として考えられる。残光が強いということは吸収した放射線のエネルギーをシンチレーションとしてだけではなく熱刺激蛍光としても放出しているいるということであり、熱刺激蛍光の分だけ放射線のエネルギーを損失していると捉えることができる。また、得られたLiBaF3セラミックスの透過率は単結晶よりも低く、自己吸収の影響が大きいと考えられる。そのため、今後の課題として、ボールミルを使用したメカノケミカル反応による目的物質の合成および粒径の制御、並びに焼結条件の更なる最適化によってより透明性の高いセラミックスの合成を試みる。加えて、相転移を引き起こすため単結晶育成が困難であると予想される化学組成についても新たに透明セラミックス化を図り、そのシンチレーション特性について調査することでハロゲン化物透明セラミックスのシンチレータとしての可能性を検証する。
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