本研究では、層状複合アニオン化合物の特異な構造や多様なアニオンの配位環境を活かし、発光寿命の短い赤色蛍光体を探索し、高強度励起用の白色光源のための蛍光体の開発を行うものである。層状酸塩化物に発光中心としてCe3+イオンを添加し、発光特性を評価した。酸塩化物Sr3Sc2O5Cl2にCeを添加し、還元雰囲気下で合成した。この試料は紫外域に3つの励起バンドを持ち、330 nmで励起することにより、470 nmを中心波長にブロードな発光を示した。励起波長を360 nmに変更すると、発光波長のピークは510 nmまでシフトした。同種の構造を持つSr3Sc2O5Br2でも330 nmによる励起によって470 nmを中心とする蛍光がみられたが、励起波長を変更しても発光波長の長波長化は観察されなかった。拡散反射スペクトルではSr3Sc2O5Br2でのみ、500 nm付近に吸収帯がみられたことから、Brに変化したことにより、結晶場分裂の大きさが変化し、長波長発光が観察されなったと考えられる。より長波長発光を示す物質として、層状酸カルコゲナイド化合物を探索し、新規層状化合物であるSr2ZnCu2Se2O2を発見した。この物質はZnの平面4配位を有する特異な結晶構造を持つことが分かった。この化合物はバンドギャップが狭いことから、蛍光体としての機能発現には至っていないが、電気的な特性や比較的大きな単結晶試料が合成できるなど、興味深い特性を持つことを見出した。また、高励起密度下での輝度飽和を測定するため、測定装置の構築を行った。分光器又は、半導体レーザーから試料に照射できる系を作成したが、当初の設計では試料部の放射照度が不足することが判明したため、照射系の再設計が必要となっている。これらの装置は国家標準にトレーサブルな受光器及び光源を利用した校正を行うことで、正確な測定が可能である。
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