研究課題/領域番号 |
20K15034
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤井 進 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90826033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 結晶粒界 / 熱伝導度 / 分子動力学法 / フォノン |
研究実績の概要 |
多結晶中に存在する結晶粒界(以下、単に粒界とする)は、結晶粒間の数nmという微小な領域にしか存在しないにも関わらず、多くの場合で材料の巨視的な特性を決定する。粒界は結晶粒の方位差に依存して多様な原子構造を示し、それゆえに示す特性も様々に変化する。粒界原子構造と特性の相関・因果関係の解明は、材料設計において極めて重要である。本研究では、原子レベル計算による構造・特性解析と機械学習を併用し、粒界原子構造-特性相関を定量的に解析する手法を確立するとともに、特性支配因子の解明を試みる。対象特性は、遮熱コーティングや熱電変換材料の断熱性、電子デバイスの放熱性において重要な熱伝導度とする。 2年目においては、Siを対象とした粒界構造の探索と熱伝導解析、並びに粒界解析に適用可能なZrO2用原子間ポテンシャルの構築を行った。また、SrTiO3における粒界熱伝導解析を追加で実施した。 Si粒界については、高精度機械学習ポテンシャルを使用し、20種類程度の粒界構造とその熱伝導度を求めた。その結果、巨視的には粒界構造の空隙(密度)が熱伝導度と相関するが、微視的には疎な粒界構造形成に伴う結合の乱れが熱伝導度を低下させる支配因子であることが判明した。 ZrO2用原子間ポテンシャルについては、第一原理計算を学習データとし、情報科学的手法によりポテンシャルパラメータのフィッティングを行った。その結果、様々な相のエネルギーや結晶構造を再現可能なポテンシャルの構築に成功した。このポテンシャルを用いて、いくつかの粒界構造を導出し、第一原理計算と良い一致を示すことを確認した。 SrTiO3粒界については、粒界での不定比性等を考慮し、30種類程度の粒界の熱伝導性を解析した。その結果、強固な原子間結合が特有の伝熱経路を形成し、粒界熱伝導度を支配することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Si粒界については、20種程度の原子構造及び熱伝導度を求めることに成功した。その際、導入した計算設備や大学等研究機関のスーパコンピュータを利用し、高精度であるものの計算負荷の高い機械学習ポテンシャルを使用した。これにより、粒界構造並びに熱伝導度の再現性が従来と比べて大幅に改善された。結果として、Si粒界において重要な熱伝導支配因子が解明されつつある。粒界構造-熱伝導度相関を定量的に解明するための重要なデータと知見が集まりつつあり、この点は計画通りの進展と言える。 ZrO2粒界の解析を行うための原子間ポテンシャルの構築にも成功した。原子間ポテンシャルの構築は、計算コストとの兼ね合いで簡略化されたモデル(数式)をベースとすることが多く、必ずしも研究目的を達成することが可能な精度・妥当性が担保できるとは限らない。今回は情報科学的手法を活用したこともあり、ポテンシャル構築が上手く進展した。いくつかのZrO2粒界構造の探索が実施できており、この点も順調に進展したと言える。 また、当初計画に追加して、三元系であるSrTiO3粒界の熱伝導解析にも取り組んだ。MgO、Siとは異なる熱伝導支配因子が明らかになりつつあり、この点は計画以上の進展と言える。 一方で、MgO以外の材料について、粒界構造に基づく熱伝導度予測モデルの構築にはまだ至っていない。これは、上記の通り今年度は定量的な議論を展開するための粒界構造・熱伝導度データの取得に重点を置いたためである。総合的に見て、おおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度においては、既に数十種類の粒界データを獲得しているSiとSrTiO3に関して、さらに多くの粒界構造探索と熱伝導解析を実施する。十分なデータが集まり次第、情報科学的手法、具体的には階層的クラスタリングや線形重回帰分析等を用いて、粒界熱伝導度を予測可能なモデルの構築に取り組む。結晶構造、結合性(イオン結合・共有結合)、構成元素など、材料の差異に着目することで、熱伝導度を支配する因子を定量的に解明することを狙う。MgO粒界については、一年目に粒界熱伝導度予測モデルの構築に成功しているため、そのモデルとの比較を中心に実施する予定である。 Si粒界、SrTiO3粒界に関しては、MgOよりも結晶粒界構造の複雑性が増しているため、MgOと同程度のデータ数(90種程度)では、精度の良い熱伝導度予測モデルが構築できない可能性もある。その場合は、暫定的に構築した予測モデルから熱伝導度支配因子並びに不足しているデータ(粒界構造の特徴)を推定し、さらなる粒界構造探索ならびに熱伝導解析に取り組む。 ZrO2に関しては、2年目に構築した新規原子間ポテンシャルを用いて、粒界構造探索を実施する。場合によっては、熱伝導度だけでなく、粒界強度の評価も行い、粒界構造に基づいて複数の材料特性を制御することが可能か、基礎的な検討を実施する。 これらの計算には、前年度までに導入した多コア並列計算機などの設備を利用する。加えて、研究機関におけるスーパーコンピュータ等を活用し、特に熱伝導度などの負荷の高い計算を可能な限り短時間で加速的に実施する。
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