研究課題/領域番号 |
20K15035
|
研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
小林 慎太郎 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, テニュアトラック研究員 (10771892)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 構造解析 / 放射光X線 / 無機材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、通常X線回折測定で用いられる粉末や単結晶試料だけでなく、バルク材料を用いて、高精度な結晶相解析を行う手法の確立を目指す。具体的には、(1)バルク材料の特徴を活かしたX線回折測定手法の開発、(2)材料内の粗大結晶粒の寄与を軽減した測定・解析手法の確立を目標とする。 (1)に関して、バルク材を固定するための治具を開発・改良し、X線照射位置で測定容器である石英キャピラリとバルク材料の表面が接触しない状態での試料加熱・X線回折測定を可能とした。この手法により、揮発性不純物に由来した回折とバルク材料内で進行する反応を区別することが容易となるなどの利点も生まれた。これらの治具に関して、複数の金属材料(Ta,W)の治具を製作した。また、石英キャピラリではなく、多種の肉厚の薄い金属管(Ni,Cu,Tiなど)に試料を固定しX線回折測定を行う手法や高温用途のサファイア製の容器を作成し、幅広いバルク材料の高温観測実験が実施可能とした。(2)に関して、X線照射位置や試料の回転方向の自由度を活かし、大量の2次元回折データを取得し、その2次元データに関して、統計的手法を用いることで粗大粒の影響の除去を試みた。本年は、①粉末内に粗大粒を含む試料、②単結晶測定セルに起因した回折の寄与を除いた解析、③結晶粒のサイズにばらつきのあるバルク材料、の解析を行った。②に関しては、統計的手法を用いることで、セルの回折の寄与を、機械的に除去を行うことが可能となるとともに、得られる回折リングの均一性が高まることを確認した。③に関して、粗大粒の影響が軽減し、シミュレーションパターンとの一致度が向上することが確認された。今後は、①による、標準試料を用いた定量評価も進め、本手法の効果について定量的に評価する。これらの試みにより、バルク材料内の結晶相分率や結晶構造データの高精度解析が可能となることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要内の、②粗大粒の回折データに与える影響の除去に関して、試料の多数の位置および角度(θ)にX線を照射し多数の二次元回折データの取得を行う手法を検討・試行した。データ解析から、試料の粗大結晶粒の寄与を軽減するための解析プログラム作成などを進めた。そして、取得されたデータに関して、統計解析を行い、粗大結晶粒の回折データに与える影響を軽減することに成功した。これらの計画は、当初の予定通り進行している。一方で、その手法による効果に関して、定量的な評価ができていない点が現状の課題であると考えている。そこで、結晶粒径が既知である粗大結晶粒を混ぜた粉末試料などを用いた定量解析を次年度以降に進め、手法の改善を進める予定である。また、磁石材料などの実用バルク材料を対象として、結晶粒組成およびそのサイズが既知の試料を用いて、Rietveld解析などを試行する。(1)のバルク材料の特定を活かした測定に関しては、試料固定法、測定に用いる複数種類の治具の開発と高温下測定への適用も進め、本課題の目標を当初の想定以上に実施できたと考えている。今後は、(1)と(2)を組み合わせた、バルク材料の解析も進めるとともに、バルク材料内の結晶粒が回転配向しない特性を活かして、外場下などでの測定へと展開したい。
|
今後の研究の推進方策 |
粗大結晶粒に起因した回折斑点の影響を除去するための二次元回折データを利用した解析手法の確立を目指し、その手法の精度検証のための実験と、実バルク材への適用に焦点を当てる。精度検証のための研究として、粗大粒を定量比混ぜた標準試料の測定を行い、リートベルト解析などからベンチマークとなる値を取得する。加えて、本手法が効果的に活用するための測定・解析条件について、系統的な評価を進める。その後、結晶粒が制御されたバルク材料(永久磁石材料など)に関して、本手法の適用前後での解析結果を比較することで、本手法の有効性を実材料で検証する。加えて、限られた試料空間(開口角の小さいセル)などへの本手法への適用も進め、高い統計精度が得づらい測定環境において、粗大粒の影響を除去する方法を試行する。粗大粒除去を行うための測定手法に関して、温度・磁場などの外場下での測定を行い、バルク材料の解析手法の利点を活かした実験方法を行い、その結果の外部発表を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初作成予定であった手動型のX線照射箇所を変更する治具に関して、測定施設における設備を利用することで、代替可能であったため、開発費用を削減した。翌年度では、本年度作成した治具についての効果を高めるための改良や、標準試料測定を行うための試料の入手やその分析を行う予定である。
|