研究課題/領域番号 |
20K15039
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
上野 慎太郎 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (40647062)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ結晶 / 誘電体 / 形態制御 / 水熱法 / ソルボサーマル法 / 複合材料 |
研究実績の概要 |
本年度はcore-shell構造を有する複合誘電体ナノキューブ結晶の合成条件の最適化を一つの目標として、均一なサイズを有し、高分散性であるナノキューブを、ソルボサーマル法によって合成した。申請時にcoreである誘電体ナノキューブには強誘電体であるBaTiO3を用いることを想定しており、飽和アルコールを中心として様々な溶媒組成(水の添加割合)、Ti源の様々な組み合わせを検討したことで、粒径分布を制御する因子、角が先鋭化したナノキューブを育成する条件を割り出し、配向集積に適した形状を持ったBaTiO3ナノキューブの合成手法を明らかにすることができた。さらに強誘電体であるKNbO3に関して、原料を精査し反応速度を高めることで、世界的に類を見ない高分散性のナノキューブ結晶を僅か数分で合成することに成功したほか、反強誘電体であるNaNbO3についても均一かつ高分散性であるナノキューブ結晶の合成に成功した。これらの成果によりcoreの誘電体に様々な誘電特性を有する材料を選択することが可能となり、今後様々なアプリケーションへの展開が期待される。 core-shell型の複合誘電体ナノキューブ合成に際しては、予定通りcoreに上述のBaTiO3ナノキューブを使用し、ソルボサーマル法によりKNbO3(shell層の材料)で被覆するというプロセスの確立を試みたが、shell層の均一性や厚さの制御が困難であった。しかしcoreのBaTiO3ナノキューブ結晶に対して原料調製条件を適切に変更することによって、水熱法により比較的均一なKNbO3のshell層をコーティングすることに成功し、ある程度shell層の厚さを制御することができる技術の開発に至った。最近では、スリップキャストやディップコートによるオパール膜の作製と集積化に着手し、条件の最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度目標としたBaTiO3(core)-KNbO3(shell)複合誘電体ナノキューブ粒子に関して、一番の課題であった均一なKNbO3 shell層によるコーディング技術を確立したことにより、微構造を制御した上で複合粒子を大量に合成することが可能となったのは大きな進展と評価できる。またcoreには、当初サイズや分散性の要求をある程度満足するBaTiO3ナノキューブ結晶を用いる他なかったが、今回の研究課題において他のペロブスカイト型構造を有する強誘電体や反強誘電体ナノキューブ結晶についても、ある程度要件を満たすものができた。これは予定にはなかったが、今後の課題の進展や応用面において選択肢を広げることに繋がる重要な実績であると考えている。集積化は着手後間もないので判定できないが、全体としてはおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後夏期に大型放射光施設において、BaTiO3(core)-KNbO3(shell)複合誘電体ナノキューブ粒子及び各coreの候補となるKNbO3ナノキューブ粒子、NaNbO3ナノキューブ粒子について微細構造や界面構造についての精密構造解析実験を予定している。またBaTiO3(core)-KNbO3(shell)以外の組み合わせのcore-shell型複合粒子についても、ユニークな誘電特性が発現する可能性が高いため、合成を検討している。集積化に関しては、均一なSiO2球状粒子の取得、合成が可能となっているため、大面積のオパール膜作製条件の最適化を行うこと、それをテンプレートとしてナノキューブ粒子の配向集積化が可能となる条件の最適化に移行していく。溶媒の表面張力や粒子とオパール膜の静電的な相互作用が重要であると予想しており、特に複合誘電体ナノキューブ粒子分散液の調製を重点的に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染状況の悪化により、大型装置の調達が困難となったことと、学会の開催形態が大きく変化し旅費の計上が行われなかったことによる。研究の進捗状況に合わせ、必要な装置の再検討・調達を行うとともに、旅費の計上分は、学会による成果報告とともに国際学術論文による成果報告により注力し、論文投稿関係の費用に充てる予定でいる。
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