研究課題/領域番号 |
20K15047
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研究機関 | 公益財団法人科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター、知の拠点重点研究プロジェクト統括部) |
研究代表者 |
塚田 千恵 公益財団法人科学技術交流財団(あいちシンクロトロン光センター、知の拠点重点研究プロジェクト統括部), あいちシンクロトロン光センター, 産業利用コーディネータ (10761033)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 窒化チタン / ナノ粒子 / 近赤外光吸収 / 液中プラズマ / 常温常圧作製 / マイクロナノバブル / 省エネルギー社会 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近赤外光を吸収する平板上や棒状の窒化チタンナノ粒子を常温常圧下の溶液中で単分散に作製することである。1年目は、単分散した窒化チタンナノ粒子を溶液中で常温常圧下にて形成できる条件の確立に重点を置いた。ナノ粒子の作製は液中プラズマ法で行った。液中プラズマ法は、溶液中で対向させた金属のロッド間にグロー放電のプラズマを発生させ、ロッドの先端からナノ粒子を生成する方法である。金属はチタン、溶媒は水、エタノール、液体窒素を用いた。全ての溶媒は導電性がないため、電解質の添加や、チタンロッド間に外部から金属ロッドを用いて短絡させることで導電性を持たせ、プラズマを発生させた。水では、電解質としてアンモニア水を加えた後にプラズマを発生させると、チタンが水と激しく反応してしまい、継続してプラズマを供給できなかった。エタノールや液体窒素では、金属ロッドで外部から短絡させることで青白いプラズマが発生し、継続して安定したプラズマを供給できた。エタノールや液体窒素はともに、溶液中に少量の黒色の生成物が見られたが、プラズマの発生条件を変更しても溶液中に単分散のナノ粒子を形成することは困難であった。しかし、それぞれの生成物はナノ粒子の凝集体の可能性があるため、今後、電子顕微鏡により観察予定である。化学状態についても様々な分光学的手法により解明予定である。今後はエタノールや液体窒素を溶媒として用い、近赤外光を吸収する窒化チタンナノ粒子の作製条件を詰めていく。 また、既往の研究で液中プラズマ法にて水溶液中に安定して単分散に作製できている金ナノ粒子に対し、窒素ガスのマイクロナノバブルを溶媒に溶解させた効果を調べたところ、バブルの溶解により金ナノ粒子が凝集せずに長期間安定して存在できると分かった。よって、窒化チタンナノ粒子の作製時もバブルの溶解により単分散の安定した粒子を生成できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、近赤外光を吸収する平板状や棒状の窒化チタンナノ粒子を常温常圧下の溶液中で単分散に作製することである。ナノ粒子の作製には液中プラズマ法を用い、作製したナノ粒子に対して電子顕微鏡や様々な分光学的手法により相補的かつ多角的に分析・解析することで、様々な形状の窒化チタンナノ粒子の特性を明らかにし、かつ、ナノ粒子の形成過程やその作製方法を体系づける。具体的には、①単分散した窒化チタンナノ粒子の溶液中での作製方法や条件、②形状を制御するための作製条件、③形状を変化させた窒化チタンナノ粒子の溶液中での光の吸収特性を明らかにする。 1年目の当該年度では、粒子径の制御よりも、単分散した窒化チタンナノ粒子を溶液中で常温常圧下にて形成できる条件の確立に重点を置く計画で研究を進めた。溶媒として水、エタノール、液体窒素を検討した。溶媒中で対向させたチタンのロッド間にグロー放電のプラズマを発生させ、チタンロッドの先端からナノ粒子を形成させることを試みたが、溶媒の選定やプラズマ発生条件の検討に時間を要してしまったため、当初計画していた当該年度での目的達成および作製試料の評価に至れなかった。しかし、溶媒やプラズマ発生の条件を確立できたため、今後、窒化チタンナノ粒子の作製に対して条件を詰めていく。チタンロッドをナノ粒子の作製源として用いることが困難な場合は、チタンイオンを含む溶液(塩化チタン等)の使用も検討する。 また、窒素ガスのマイクロナノバブルについて、作製した金属ナノ粒子が凝集せずに長期間安定して存在できるという効果も明らかになり、溶液中に単分散したナノ粒子の作製の目的達成において重要な要因になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
溶媒としてエタノールや液体窒素を用い、液中プラズマ法にて、近赤外光を吸収する窒化チタンナノ粒子の作製を試みる。エタノールについては、窒素ガスのマイクロナノバブルを溶解させてナノ粒子を作製し、バブルの有無や溶解量の違いによる粒子の差異を系統的に調べる。チタンとバブルの窒素ガスが反応して窒化チタンナノ粒子が生成され、かつ、バブルにより単分散な粒子を作製できると予想される。液体窒素については、1年目にて、液体窒素内で対向させたチタンロッドの間にプラズマを発生させるとチタンが液体窒素と反応して窒化チタンが多量に生成されると予想したが、エタノールを溶媒にしたときよりも生成物の量が非常に少なかったことから、液体窒素内ではチタンロッドの先端からチタンが溶出しにくい可能性がある。そこで、対応策として、液体窒素内にチタンイオンを含む溶液(塩化チタン溶液等)を加え、かつ、イオンの還元のために対向させたタングステンロッドから発生するプラズマを用いることで、液体窒素とチタンイオンを反応させて窒化チタンナノ粒子の作製を試みる。作製が困難な場合は、液体窒素が材料作製の超低温場として有用という報告から液体窒素を反応場として用い、チタンイオンを含む溶液と窒素を含む溶液(塩化アンモニウム等)を混合して液体窒素内に加えた後、タングステンロッドのプラズマで還元させることも試みる。窒化チタンナノ粒子を作製できても粒子径が大きいこと等により近赤外光吸収が生じないと考えられる場合は、チタンイオンを含む溶液や窒素を含む溶液にマイクロナノバブルを溶解させ、還元時の反応場の大きさを変化させる。 また、本研究課題の社会的な最終目的は、近赤外光を吸収するナノ粒子を作製することであり、かつ、他の方の既存の研究で水素添加した酸化チタン粒子が近赤外光を吸収するという報告もあるため、窒化チタンに限らず他のチタン粒子も対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
液中プラズマ法を用いて単分散した窒化チタンナノ粒子を溶液中で常温常圧下にて形成することを目指して試料作製を行ったが、試料作製が計画通りに進まず、電子顕微鏡での形状および粒子径の評価や、分光手法を用いた化学状態および結晶構造の評価まで至らなかった。また、学会発表がオンラインでの開催になり、旅費が不要になった。以上より次年度使用が生じた。令和2年度で計上していた費用を用い、令和3年度にて試料作製後の評価を実施する。また、現地開催の学会があれば旅費を使用して参加し、発表する予定である。
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