銅(Cu)欠乏症の骨は正常骨密度にもかかわらず低強度であるという事実から、骨の力学機能を制御する候補因子としてCuに着目した。本研究では、生体必須金属元素である銅が骨力学的機能を制御するメカニズムを、骨の主成分である六方晶系を有するアパタイト結晶の集合組織、結晶成長過程といった結晶学的立場から解明することを目的とした。Cu欠乏食と標準食をラットに一定期間投与し、in vivo動物実験系を確立した。Cu欠乏により骨密度は変化しないものの、一部の部位では骨長手へのアパタイト結晶c軸配向性が低下した。これと一致して、低配向性を呈する骨部位にて骨力学的機能が低下した。つまり、Cuのin vivoにおける骨強度低下の要因の一つとして骨微細構造破綻が示唆された。Cu欠乏症における骨微細構造変化の機序について検討するために、血液中液性分子濃度の定量解析を実施した。Cu欠乏では特定の非コラーゲン性蛋白質量の低下傾向が認められた。当該蛋白質の欠損モデル動物では、アパタイト結晶が、核生成の際のコラーゲン有機物との結晶方位エピタキシーを損なうことを見出した。したがって、in vivoにおいて、Cuは生体内分子の代謝調整を起点として、骨微細構造とそれにともなう骨力学機能を制御することが示唆された。得られた知見は、骨組織の構造材料としての機能発現機序の一端を明らかにするものであり、骨脆弱性を呈する骨疾患に対する治療法や再生法の提案につながる可能性を秘めている。
|