研究課題/領域番号 |
20K15053
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
柳迫 徹郎 工学院大学, 工学部, 准教授 (80784628)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スマート材料 / 圧電複合材料 / 分極制御 / 金属基複合材料 / 知的材料 |
研究実績の概要 |
金属基圧電複合材料における局所的分極制御の実現に向けて,圧電セラミックスの分極処理時に金属母材と表面酸化金属繊維間に印可する電界に関し,最適化を図った.提案する金属基圧電複合材料は,内部電極に表面酸化膜を有した金属繊維を用いることを特徴としているが,この酸化膜により金属繊維-金属母材間の電気的絶縁の確保および圧電セラミックス焼結時の金属繊維-圧電セラミックス間の科学的反応防止を実現しているものである.この酸化膜は金属基圧電複合材料の機能発現に必須であるが,同時に酸化膜が誘電体であるため圧電セラミックスの性能を発揮させるために外部から電界を印加し,圧電セラミックスの自発分極の向きを配向させる分極処理時に,圧電セラミックスのみならず酸化膜に電界が印加され,金属繊維-金属母材間に印可する電界の全てを分極処理に用いることができないことが判明した.このため,簡易的なコンデンサモデルを作成し,酸化膜および圧電セラミックスの誘電率の比と酸化膜厚さと圧電セラミックス厚さの比が分極時に有効に使用される電界に影響を与えることを示し,このコンデンサモデルを使用することで分極処理の最適化が図れることが示唆された.しかしながら,実際に使用する酸化膜の誘電率の値が必要であること,酸化膜の厚さが誘電率に影響を与えることが予想されたことから,実際に金属酸化被膜の誘電率を測定した.加えて,金属繊維-金属母材間に電界を印加する際,酸化膜が絶縁を担うことから酸化膜の絶縁強度を調査した.これらの誘電率,絶縁強度を用い,酸化膜厚さ,圧電セラミックスおよび印加電界を設計変数とすることで,絶縁破壊を起こさずに圧電セラミックスが有効に分極される条件を導き出すことが可能であることを示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,初年度において複数本金属繊維を内在した圧電セラミックスの作製および作製条件,また内部電極を有した圧電セラミックスの金属中への複合化条件の最適化をした後,次年度に圧電セラミックスにおける分極条件の最適化を行う予定であった.しかしながら,COVID-19の影響により,大学内に入構禁止措置が数か月にわたり実施されたため,当初予定していた表面酸化金属繊維を複数内在する圧電セラミックスの作製および作製条件の最適化の実行を先送りとし,代替としてシミュレーションベースで検討可能な圧電セラミックスの分極処理条件最適化を先行して行った.この分極処理条件最適化に関しては,単純なコンデンサ結合モデルを用いることで最適化が可能であることを見出しており,また最適化にあたって必要となる物性値である酸化膜の誘電率および絶縁強度の測定も行っているため,おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
分極処理条件最適化手法は,2020年度においてある程度確立することができたため,今後は実際に局所的分極制御を可能とするアレイ状の内部電極を有する金属基圧電複合材料の作製を実現することを目標とする.第1段階として,2本の内部電極を有した圧電セラミックスの作製および作製条件の最適化を行い,その後,金属母材中への複合化を試みる.この際,複合化温度,圧力,保持時間に加え,インサート材の種類および添加量の最適化を行う.金属基圧電複合材料を作製後,2020年度に構築した分極処理条件最適化手法を用いて分極を行い,構築した手法の有用性を検証する.また,作製した複合材料に振動試験および衝撃印加試験を行うことでそれぞれの電極からの出力を評価し,複数の応力測定センサとしての特性を評価する.加えて本複合材料の特徴の一つである,機械的特性に優れる鋼系母材,比強度に優れるアルミニウム,チタン系母材など用途に合わせた母材の選択性を複合化条件を基準に評価を行っていく.すなわち,それぞれの母材における各条件から材料を変化させた際の複合化条件設定手法を構築することを目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの影響により,購入予定であった材料部材(圧電セラミックス粉末)が年度内に入荷しなかったため.本年度では,早期に発注することで使用期間を確保する.
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