光渦とは、螺旋波面に由来する円環の空間モードと軌道角運動量を有する光波の総称である。光渦を物質表面に照射すると、物質が光渦の軌道角運動量を受取りキラルな螺旋構造に変形することが知られている。本申請課題では、金イオンをドープした生体適合性ポリマーの代表例であるPEGDAハイドロゲルに対して光渦を照射すると、ハイドロゲル中の金イオンの光還元を介して、光の進行方向に対してねじれた構造体が析出し、光渦の螺旋波面が記録されることを明らかにした。 ハイドロゲルと光架橋剤には、PEGDA(分子量 6000)とIrgacura 2959を用いた。紫外線照射を行い重合したハイドロゲルを塩化金(Ⅲ)水溶液に10分間浸すことでハイドロゲルに金イオンを添加した。光渦に変換した波長532 nmのピコ秒パルスグリーンレーザーを10 秒間照射しつづけ、光還元によって金を析出させた。金析出したハイドロゲルの光学顕微鏡像は円環形状を示し、さらに3次元にこの析出した金を確認するとらせん構造を示していることが分かった。この円環部にガウスビームを照射すると、円環の空間モードに変換された。この円環空間モードの自己干渉像から、円環空間モードが光還元のために照射した光渦の軌道運動量と同じ次数の螺旋波面を有することがわかった。これらの実験結果は、光渦の螺旋波面がハイドロゲル内に光記録されていることを意味する。得られた変換光のプロファイルを画像解析した結果、変換効率は50%程度と見積もられた。さらに課題期間中においては、ビーム伝搬法による数値解析による導波路解析を行い、カイラル構造体が形成される過程についても明らかにした。 本研究はソフトマテリアル内部において光のらせん性によって金属粒子の秩序形成がされることを初めて解明したものである。
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