研究課題/領域番号 |
20K15060
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西村 直之 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 教授(特定雇用) (10644940)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DLC / フッ素 / 感染症 / 抗菌 / 表面処理 / 脊椎ケージ / 有効性 |
研究実績の概要 |
体内埋入型医療機器は近年人工関節、脊椎ゲージなどの進展により適用数が増加している。一方で手術初期などから晩期にわたって感染症による症例も増加しており、この課題解決に関する具体的な方策が求められている。また今後のIoTの進展などにより在宅での医療機器適用が診断機器から治療機器への拡大に伴い、在宅で患者自身もしくは診断機器、治療機器を内蔵したパッドなどによる治療時に、機器と体内部を接続する必要があり、この部分にも高い感染に対する抵抗性処理が必要になってくる。この様な考えから抗菌性処理の1つとしてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)に着目し、DLCコーティングの平滑性に基づく菌付着の防止、F(フッ素)添加による糖代謝抑制による増殖の阻害を目的として、試験片の試作及び化学的評価、実証試験を行なっている。 これまでにPBII法によりDLC膜を製膜し、①抗菌性の確認(JIS規格による増殖性試験) ②生物学的有効性(MC3T3による骨芽細胞増殖性試験)を行い所定の性能を確認し、細胞評価という面においては有効性を確認した。 一方で医療機器に適用する場合にはリスクマネジメントを行う必要がある。一例として脊椎ケージを例にとると、荷重に対する耐摩耗性などの評価が必要になる。Ti-6Al-4Vの他に近年適用例が増加しているPEEK材料(Poly-Ester-Ester-Ketone)も併せてピンオンディスク試験など実施し、荷重に対する摩擦係数変化及び表面の化学分析からDLC膜の摺動特性などの評価を行ない学会にて発表を行なった。 令和3年度においては溶出試験などの安全性試験を中心として検討を行い、その他に小動物に対する埋入試験による組織変化、骨との親和性評価、動物内でのFイオンの動態調査などを実施する。また将来的な適用部材として人工血管などへの適用を考慮して行きたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において予定されているDLCの製膜方法などの検討を行った。試験片の準備に関してはDLC膜のコーティングも含め1部ウサギ向け試験片などを除き終了している。 1)複数のイオン種による際の防毒性の評価に関しては、電位差滴定などにより各種イオンの水溶液中での相互作用の検証を実施し、ダイアグラムなどとともに実験条件の設定を終えた。 2)溶出の遮断に対しては作製したDLC試験片によるアノード分極試験を実施中である。腐食に対する高い耐久性を持たせるには膜の完全性の要求があり、現在のところピンホールなどの影響から腐食電流が観察されており、製膜条件へのフィードバックを検討している。 3)これまでにDLC単体、及びDLCへフッ素を導入した試験片に関して抗菌性試験を継続している。導入したF濃度のDLCではほぼ菌の増殖が見られず高い抗菌性を示している。一方で他の機能への悪影響も懸念されるために、現在DLC表面へ導入するフッ素濃度を削減する試験を実施し、抗菌性、骨芽細胞の増殖性に関する検討を実施するためにフッ素のコーティング条件の再検討を実施した。ただし濃度が低くなる場合には反応条件の制御が難しく、これらに関しては令和3年度に再検討を行う。 これらの知見の結果から当初予定になかった製膜されるチタン合金(Ti-6Al-4V)の表面粗さ、うねりが細胞の増殖性に与える影響などが徐々に見出せつつある。加工の協力をお願いしている機械加工メーカとも協力し、表面うねりなどを制御した試験片の試作を実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
実施内容に関しては、ウサギなどの動物試験片へのDLC膜の製膜が残件として残っており、これを製膜する事で試験片の作製に関しては終了する。令和3年度はこれらの試験片などを用いて以下の3つの大項目に関して試験を実施する。 1)複数イオンによる細胞毒性への影響評価に関しては令和2年度設定したイオン条件でのイオン濃度に関して培地への添加からV79などの細胞評価を実施する。この結果と金属試験片からの溶出試験結果から仮定の妥当性を評価し結論を出す。 2)令和2年度に引き続き、DLC膜のアノード分極試験を継続し最終的なDLC製膜条件を設定する。その他同時に骨芽細胞などの増殖試験、ウサギなどの埋入試験を実施することにより有効性、安全性の評価を実施する。 3)DLC膜へのフッ素添加による抗菌性付与に関して安全性と有効性を兼ねたフッ素濃度に関する基礎的なデータを収集する(初期表面濃度、溶液中への放出速度などを検討する)。合わせて2)と同様にその他同時に骨芽細胞などの増殖試験、ウサギなどの埋入試験を実施することにより有効性、安全性の評価を実施する。 将来的に医療機器などへの適用を考慮し可能な範囲において基材の影響を調査する必要がある。現在はチタン合金(Ti-6Al-4V)をベースに一部PEEK材料(Poly-Ester-Ester-Ketone)など整形分野においての適用調査となっているが、抗菌性などを考慮すべきは人工血管などの埋入医療機器も同様である。この場合更には抗血栓性などの確認が必要である。適用材料としてはポリウレタンなどのチューブ状試験片の適用となるため、今後DLC膜の製膜機器及び製膜条件などの調査も実施出来ればと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)余剰要因としてコロナによる出張規制があり、出張が削減された。一方不足要因として従来は機器利用でDLC膜の試作を予定していたがコロナにより移動ができず外注に依頼することになった。この余剰要因と不足要因により予算に差異が生じた。 (使用計画)2021年度の使用計画としては動物試験などを実施する際の消耗品費として使用する予定である。
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