ソフト多孔性錯体(Soft MOF)は構造柔軟性に起因したステップ状の吸着(ゲート吸着)を示すが,粉末試料を高分子バインダーでペレット化すると,そのステップ形状が緩慢になることが明らかとなっている。本研究課題では,この原因がSoft MOFが高分子バインダーから受ける外力にあると仮定し,その立証を目指している。 昨年度までの検討から,緩慢化現象のカギは,高分子バインダーからかかる外力だけでなく,Soft MOFの微結晶中において骨格構造が独立して構造変形することにあることが分かっている。この独立変形性は熱力学的に自然な発想であるものの,仮説の域を出ていなかったため,本年度は,分子動力学法とモンテカルロ法を組み合わせたhybrid GCMD法により,平板積層型Soft MOFを狭窄した際の平均力ポテンシャルの直接計算を試みた。その結果,分子シミュレーションからも,各層が独立して転移していく様子が確認され,また得られた平均力ポテンシャルは予想していたとおりに波線状のプロファイルとなることが分かった。さらに,その波線状のプロファイルは大きなスケールで見ると下に凸となっており,これが配置のエントロピーの寄与によるものであることを明らかとした。 加えて,相互貫入型のJG-MOFの合成・ペレット化に着手し,昨年度検討した平板積層型構造を有するELM-11との比較を行った。その結果,構造変形における体積膨張率が小さいJG-MOFの方がゲート吸着の緩慢化現象が抑制できることを明らかにした。この結果は,ゲート吸着の緩慢化が外力によって生じているという説をより強固なものとする結果である。
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