研究課題/領域番号 |
20K15076
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
貝出 絢 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (50773074)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糸曳き / 粒子沈降防止 / 粘弾性 / レオロジー / スラリー / 分散系 |
研究実績の概要 |
本研究は、流体が糸を曳く性質について、レオロジー特性と関連付けながら考察することを目的としたものである。さらに、糸を曳く性質が、固体を含む液(分散系)の沈降防止に役立つことが予想され、どの程度糸を曳けばよいか、もしくは、どのような曳糸性挙動が見られれば望ましいのかを実験的に明らかにするため、当該年度は以下の実験を行った。 溶媒として油類(ドデカン)を用い、低分子オイル増粘・ゲル化剤としてピロメリッド酸テトラカルボキサミド(PMDA-R)を使用した。この化合物は、ベンゼン環を基本骨格とし、その周囲に4つのアミド基を有するものである。アミド基の末端にアルキル基が配位しており、特に、4つの側鎖のうち、結晶性の異なる2種類のアルキル基を導入することで、溶解性だけでなく、レオロジー特性を変えることができる。最大で1wt%の化合物を溶解させて調製した試料に対して、レオロジー特性(平衡流動特性、動的粘弾性)を測定し、さらに本研究で新たに作製した曳糸性測定装置によって、糸曳きを評価した。 動的粘弾性の貯蔵弾性率であるG'の最大値(高い各速度域で観察されるG'の平たん部)の値の大小と糸曳きの初期にみられる勾配に関連が見られ、さらにG'とG"の交点から算出できる緩和時間と曳糸長にも関連が見られた。ただし、化合物を得る際の合成条件(スケール、温度、加熱時間等)の違いによって組成が変わり、結果的にレオロジー特性が変わったり、もしくは組成がほぼ同じであっても、撹拌の状況(撹拌機の違い)によっては、液面または針の先端から糸が切れるという糸曳き挙動に顕著な違いが見られることがわかった。粒子の沈降の抑制に必要であると考えている糸の長さは最大で数cmであり、これを評価するためには、特に糸の発現課程ではなく、消失過程を細かに観察する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響で、本学の入校制限が設定され、特に前期は大学院生の研究時間の確保に問題が生じた。また本研究では、曳糸性を測定する装置を自作する必要があったが、その部品の納期も大幅に遅れ、装置の完成までに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を達成するために、当初計画した5つのアプローチを以下に示す。AP-1. 曳糸性を示す液を系統的に調製し、それを用いた実験データを蓄積していく。AP-2. 曳糸性に関連する物理量を探す。AP-3. 曳糸性の大小を操作する技術へ発展させる。AP-4. 曳糸性の発現、および曳糸性が増すと沈降安定性が増すことに対するメカニズムを探る。AP-5. 曳糸性の評価方法と結果を指標で表す方法を提案し、その標準化を図る。 このうち、AP-1.およびAP-2.を2020年度中に完了させ、2020年度後半からAP-3.に着手し、2021年度にAP-4.に取り組む(AP-5.は本申請の対象外)ことを予定していた。AP-1.およびAP-2.については、おおむね達成している。AP-3.に着手するうえで、粒子の沈降の抑制に必要であると考えている糸の長さは最大で数cmであり、これを評価するためには、特に糸の発現課程ではなく、消失過程を細かに観察する必要があると考えられた。このため、純粋な系(粘性が高いことによって糸曳きが発現する系、高分子凝集剤のように顕著な糸曳きを発現する系)についても糸の形状、その長さ等を明らかにするために、2021年度はこれを実施する予定である(グリセリンおよびPolyethylene Glycol 4,000,000を購入済み)。そのうえで、AP-4.に取り組むことを考えている。ただし、新型コロナウイルスの影響により、当初の計画よりも半期程度の遅れが生じているため、場合によっては、2022年度までの延長を検討する必要もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
岩手で開催予定の第68回 レオロジー討論会(2020年10月)および東京で開催予定の化学工学会 第86年会(2021年3月)の出張費を請求していたが、新型コロナウイルスの影響により、オンライン学会に変更になった(未使用額:26万円)。また、試料のTEM観察を日本電子㈱に2検体依頼する予定であったが、2020年度内に評価すべき試料がなかった(未使用額:24万円)。物品(消耗品)については、溶媒の購入に充てていた費用が残っている(未使用額:2万円)。これらは、2021年度中に使用を予定しているが、新型コロナウイルスの影響もあり、実験自体が遅れているため、場合によっては、本申請を2022年度まで延長することも考えている。 2021年度に予定しているものについては、当初の計画通り、沈降実験に必要と思われる粒子および粘度計の校正液を購入する。また、論文の英文校正費、TEM観察の委託費、および学会の参加費として計上している。
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