本研究は、流体が糸を曳く性質について、レオロジー特性と関連付けながら考察することを目的としている。また糸をわずかに曳くという性質が、固体を含む液(分散系)の沈降防止に役立つことが予想され、そのための知見を得るために、以下の実験を行った。 溶媒としてドデカン、イソステアリン酸イソステアリル等の油類に低分子オイル増粘・ゲル化剤:ピロメリッド酸テトラカルボキサミド(PMDA-R)を溶解させたものを試料とした。この化合物は、ベンゼン環の周囲に4つのアミド基を有しており、その末端にアルキル基が配位している。4つの側鎖のうち、結晶性の異なる2種類のアルキル基を導入することで、溶解性およびレオロジー特性を変えることができる。最大で1wt%の化合物を溶解させて調製した試料に対して、レオロジー特性(平衡流動特性、動的粘弾性)を測定し、さらに本研究で新たに試作した曳糸性測定装置によって、糸曳きを評価した。これにより、糸曳きのパターンが複数存在することを明らかにした。また、それらを粘弾性と関連付けて整理した。さらに、化合物が油中で形成する内部構造と化合物の結晶性を関連付けて考 察した。 実験により、化合物を得る際の合成条件(スケール、温度、加熱時間等)の違いによって組成が変わり、結果的にレオロジー特性が変わったり、もしくは組成がほぼ同じであっても、撹拌の状況(撹拌機の違い)によっては、糸曳き挙動に顕著な違いが見られることが明らかになった。このようにロットや製造時期の違いについて、添加剤の効果を明らかにする手法として、粘弾性の測定と今回作成した糸曳きの評価を合わせて行っていく必要性を指摘した。本実験の成果を他のスラリーに適用した場合に、糸曳きの効果と粒子沈降安定性について、一定の効果が見込まれている。
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