超音波を液体中に照射すると、超音波振動によって音響キャビテーションが発生する。この音響キャビテーション気泡は超音波振動に応じて振動し、超音波により高圧環境下に置かれると急激に圧縮し、気泡の内部温度が5000K以上に達する。この際に水の熱分解によって各種ラジカルが発生し、このラジカルにより化学反応が発生する。このプロセスにおいては、超音波によってキャビテーション気泡が発生するものの、その気泡の存在によって超音波が減衰、散乱することで、化学反応が発生する領域が狭くなる。また、超音波を発生させるには超音波振動子を共振させる必要性があるが、共振条件を満たすためには小さい振動子しか用いることができず、大規模プロセスへと展開できない。この課題を解決し、超音波プロセスをスケールアップする指針を確立するため、本研究ではミクロスケールとマクロスケールで見られる現象を同時に解析する数値解析モデルを構築することとした。 本研究によってミクロスケールでのキャビテーション気泡振動、マクロスケールでの音響流と超音波伝搬までを統合的に解析できる数値モデルを作成した。また、これを利用して、超音波反応速度が上昇する条件を求めた。例えば、超音波照射によって発生する音響流を超える外部流を与えることで、物質移動が向上し、反応槽内全体の反応速度が向上した。また、これまではキャビテーション気泡が数多く存在する条件においては気泡振動が弱くなると理論的に説明されてきたが、本研究によって、むしろ気泡振動は増幅し、これによって超音波がより散乱、減衰するようになるため、反応領域が狭まることを見出した。
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