研究実績の概要 |
本研究では、特に遷移金属を触媒に用いる有機合成反応について、フロー式反応器を用いた自動化速度解析を実現することと、そこから触媒種の失活挙動について明らかにすることを目的として進めた。自動化速度解析については、フロー式の実験では、分析装置に直接配管を接続することで実験・解析の自動化が可能である。また、高温・高圧条件で反応を進行させることや、高速な反応を追跡することも可能である。本研究の主要な成果として、シリンジポンプ・バルブ・ヒーターの制御および温度、センサー値等の記録を行うためのソフトウェアを独自開発し、運用に成功した。インラインHPLCを接続することで、実験結果の分析およびフィードバックも行うことができるようになっている。HPLC分析系の制御および成分ごとのピーク面積計算には、汎用の制御・解析ソフトウェア(LabSolutions, Shimadzu)を組み合わせて用いることで、正確性の高い解析が行えている。また、HPLC分析結果からフィードバックをかけて実験条件を決定するためのアルゴリズムとしてSNOBFIT法を導入することに成功している。 モデル反応系として、N,N-diethyl-2-phenylacetamideを1,1,3,3-tetramethyldisiloxane を用いて還元する反応を例にとって自動化実験を行った。触媒としては、Vaska錯体(IrCl(CO)(PPh3)2)を用い、トルエンを溶媒として検討を行った。フロー式反応器の特性を生かし、反応時間を数秒から数分まで短くして検証を行った結果、既往の文献で示されているTOF(触媒回転頻度)よりも、実際のTOFは1桁以上大きくなることが判明した。触媒の失活に際しては、触媒溶液のみでも進行していることより、基質や反応剤との副反応だけでなく、不均化・凝集等が重要な要素であることが判明した。
|