研究課題/領域番号 |
20K15082
|
研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
林 啓太 奈良工業高等専門学校, 物質化学工学科, 講師 (10710783)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 自己集合体 / 反応場 / エポキシ化 |
研究実績の概要 |
本年度においては,SpanおよびTween系界面活性剤から構成されるミセルやベシクルといった自己集合体の階層的疎水性について評価することに成功した.蛍光プローブpyreneに各ジカルボン酸(コハク酸,スベリン酸,ドデカン二酸)を修飾したPy-C3-COOH,Py-C7-COOH,Py-C11-COOHを用いて自己集合体疎水領域の界面近傍,中間,および疎水領域中心について疎水性を評価した.Pyreneは周囲の環境により蛍光スペクトルが変化することが知られており,特に一価アルコールを溶媒とした場合,比誘電率に相関することが報告されている.自己集合体疎水領域も一価アルコールと同様に主に炭素と水素から構成される単純な構造であるため,おおよそこの相関と適応できると考えられる.そこでまずPy-C3-COOH,Py-C7-COOH,Py-C11-COOHと各溶媒の比誘電率との関係を評価したところ,相関性が認められた.この相関をもとに,各自己集合体疎水領域における疎水性を比誘電率で評価したところ,界面近傍では60-70,中間では30-50,疎水領域中心では10-20と界面から中心部へと比誘電率が低下することが明らかとなった.つまり,自己集合体疎水領域の疎水性は均一ではなく,中心部に近いほど疎水性が高いことが明らかとなった.従って,分子を自己集合体疎水領域に封入する場合,親水的な分子はより界面近傍に,疎水的な分子はより疎水領域中心部に封入されると考えられる.また,本研究室ではミセルやベシクルといった自己集合体の構造に依存した特性の違いに着目して,その応用を議論してきたが,構造の違いに起因する疎水性の違いは観察されなかった.つまり,ミセルでもベシクルでも応用可能であると考えられる.次年度では,この局在性を活用した自己集合体疎水領域内における選択的有機合成を試みる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において,自己集合体疎水領域内における階層的疎水性評価が確立できたことからも,おおむね順調に進展していると判断できる.本研究室では,様々な手法を用いて自己集合体を評価し,その評価されたパラメータをもとに,自己集合体の応用,特にドラッグデリバリーシステムにおける薬剤カプセルとしての応用について検討を行ってきた.これらの評価手法に関して蛍光プローブを用いた検討も多く行ってきたが,これらの蛍光プローブは市販されているものであった.一方で本研究で用いたPy-C3-COOH,Py-C7-COOH,Py-C11-COOHは1-ピレンメタノールと各ジカルボン酸(コハク酸,スベリン酸,ドデカン二酸)を縮合することによって有機化学的に合成したものである.本研究室では有機合成による蛍光プローブの合成はあまり検討していないため,蛍光プローブの合成そのものが本研究において最も問題になると考えられたが,合成に成功したために研究は順調に進展した. Py-C3-COOH,Py-C7-COOH,Py-C11-COOHにより自己集合体疎水領域内における階層的疎水性を評価したところ,同じ自己集合体の疎水領域であっても,界面近傍ではより親水的な,疎水領域中心部ではより疎水的な溶媒環境を示すことが明らかとなった.つまり,分子を自己集合体疎水領域内に封入した場合,親水的な分子は自己集合体近傍に,疎水的な分子は自己集合体疎水領域中心部に局在化すると考えられる.この特性を応用して自己集合体疎水領域内における選択的有機合成を検討中である.Span/Tween系界面活性剤からなる自己集合体に反応物質を添加して,自己集合体界面近傍におけるエポキシ化を検討している.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度においてはこの階層的疎水性の違いに起因する分子の局在性を応用して,自己集合体疎水領域内における選択的有機合成についてエポキシ化反応をモデルに議論を行う.今後の研究において最も問題となる点は反応後における反応物質,未反応物質,触媒,および自己集合体を構成する界面活性剤の分離である.特に,反応物質となるステロイド分子と自己集合体を調製する際に用いる非イオン界面活性剤(Span系界面活性剤,Tween系界面活性剤)とを分離することは非常に困難である.そこで次年度においては,従来のSpan/Tween系界面活性剤から構成される自己集合体の他に,他の界面活性剤から構成される自己集合体を用いて検討を行う.例えば脂肪酸の一種であるオレイン酸はカルボキシ基を有しており,塩基性条件下ではイオン化する.一方で,反応物質となるステロイドは同様の条件下ではイオン化することはないため,この特性の違いを応用することにより固相カラムなどを用いた容易な分離の達成が期待される.また,SDSやCTABといった界面活性剤では,コレステロールを種々の割合で添加することでミセルからベシクルまで様々な自己集合体が調製可能であることが報告されており,これらの自己集合体に反応物質を添加して調製された自己集合体を用いてエポキシ化反応に関する選択性を検討を行う予定である.
|