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2020 年度 実施状況報告書

金属多核構造を精密に構築したポリオキソメタレートを用いたアルカン酸化触媒の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20K15085
研究機関東京大学

研究代表者

矢部 智宏  東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40803234)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワードメタン / ポリオキソメタレート / 酸素酸化 / メタノール / 鉄置換ポリオキソメタレート / 高分散担持触媒 / 選択酸化反応
研究実績の概要

低級アルカンの酸素酸化反応として,本年度はメタンをターゲットとし酸化剤は酸素のみを用いて反応を行った.前者は気相アルカンの中でも最も反応性に乏しく,メタノールをはじめ酸化反応生成物は基質より反応性が高く選択性のコントロールが難しいため,低温でメタンや酸素を活性化しながら目的生成物の速やかな脱離により逐次酸化を抑える触媒開発を目的とする.また本研究で触媒として注目している金属置換ポリオキソメタレート(POM)は,骨格内に1原子単位で活性点を作り込むことができる材料であるため,精密に設計した活性点を有する均一な固体触媒を合成可能である.そこでメタン酸化のような複雑な反応経路を有する反応においても高い選択率を示す触媒の開発を目指す.
そこで初年度は,523-623 Kという比較的低温の条件でメタン酸化活性を有するPOM触媒の探索をおこなった.種々の金属置換POMのスクリーニング試験を行った結果,鉄やニッケルを欠損型POMに導入した触媒において523-623 Kにおいてメタノールが生成することを見出した.特に鉄二核置換POMのセシウム塩触媒においては逐次酸化生成物である二酸化炭素の生成を抑えて,比較的高い選択率でメタノールを得ることに成功した.一方で触媒回転数(ターンオーバー数, TON)は1を下回っており,メタン転化率が低いことが問題であることも分かった.次にメタン転化率の向上を目指して,さらに高温条件でメタン酸化反応を行った.鉄二核置換POMと鉄四核置換POMのセシウム塩触媒を用いて673-873 Kで反応を行ったところ,温度とともにメタン転化率が増加し,873 Kにてそれぞれ0.79%と1.5%を示した.鉄四核置換POMではホルムアルデヒドが主生成物であり、一酸化炭素と合わせて選択率93%という非常に高い値を示した.本研究成果に関しては,学会等で口頭にて発表を行った.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度は,523-623 Kという比較的低温の条件でメタン酸化活性を有するPOM触媒の探索をおこない,鉄やニッケルを欠損型POMに導入した触媒において523-623 Kにおいてメタノールが生成することを見出した.特に鉄二核置換POMのセシウム塩触媒においては二酸化炭素の生成を抑えて,高い選択率でメタノールを得ることに成功した.POMを触媒として気相メタン酸化を行った例はほとんどなく,メタノール生成を報告した例は初めてである.また鉄を活性点にもつ固体触媒はゼオライトや金属有機構造体(MOF)において過酸化水素を用いたメタン酸化のみ報告があり,酸素を用いたメタノール合成についても初の報告であり,鉄多核構造の活性点に対して精密に設計したPOMという新たな材料群を提唱することができた.一方で触媒回転数は1を下回っており,メタン転化率が低いことが問題であることも分かった.次にメタン転化率の向上を目指して,さらに高温条件でメタン酸化反応を行った.鉄二核置換POMと鉄四核置換POMのセシウム塩触媒を用いて673-873 Kで反応を行ったところ,温度とともにメタン転化率が増加し,873 Kにてそれぞれ0.79%と1.5%を示した.鉄四核置換POM触媒ではホルムアルデヒドが主生成物であり、一酸化炭素と合わせて選択率93%という非常に高い値を示した.温度を上げることで673 K以降ではメタノールの逐次酸化生成物であるホルムアルデヒドが生成した.一方で二酸化炭素生成は抑制できており、ホルムアルデヒドの脱離を促進することで逐次酸化の抑制に成功した.
以上により,低温領域ではメタノールを選択的に生成し,高温領域ではホルムアルデヒドを選択的に生成することに成功し,当初の目的である精密に設計したPOM触媒によって高い選択性を実現することに成功したので,進捗状況は順調に進展しているといえる.

今後の研究の推進方策

現在までの研究により,種々のPOMをスクリーニングすることで鉄・ニッケル置換POMの中でメタン酸化に有効な活性点を有する触媒の絞り込みが順調に進展した.一方で低温領域でのメタノール合成では触媒回転数がいまだ小さいため,反応速度を向上する工夫が必要である.例えばPOM触媒は構造が均一であるが,結晶性が高く比表面積が小さくメタンなどの基質のアクセス性が悪いため,酸化物担体などに高分散に担持することでPOM分子との反応効率を向上できると考えている.また高温領域ではPOM分子を前駆体として新たな活性点構造が形成していることが予想されるため,XAFS(X線吸収微細構造解析)やSTEM-EDS(走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法),XPS(X線光電子分光法)を用いて鉄活性点構造の詳細(金属の電子状態や分散状態)を明らかにすることを予定している.さらにDFT計算を用いてPOM中に作り込んだ鉄多核構造がメタンを活性化する(C-H結合活性化)メカニズムや,POM骨格(タングステンやモリブデン)と金属活性点の相互作用とメタン活性化への影響についても検討する予定である.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)

  • [学会発表] 鉄置換ポリオキソメタレート触媒を用いたメタンの選択的酸化反応2021

    • 著者名/発表者名
      和知 慶樹, 矢部 智宏, 鈴木 康介, 山口 和也
    • 学会等名
      日本化学会第101春季年会
  • [学会発表] 金属多核構造を精密に設計したポリオキソメタレート触媒を用いた低級アルカン酸化2020

    • 著者名/発表者名
      矢部智宏
    • 学会等名
      石油学会ジュニアソサイアティ(JPIJS)主催 2020年度JPIJS講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 高選択的酸化反応を指向したポリオキソメタレート分子固体触媒の開発2020

    • 著者名/発表者名
      鈴木 崇哲, 矢部 智宏, 鈴木 康介, 山口 和也
    • 学会等名
      日本化学会第10回CSJ化学フェスタ2020
  • [学会発表] メタンからのメタノール直接合成を指向したFe置換ポリオキソタングステート触媒の開発2020

    • 著者名/発表者名
      矢部 智宏, 和知 慶樹, 鈴木 康介, 山口 和也
    • 学会等名
      石油学会第50回石油・石油化学討論会

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公開日: 2021-12-27  

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