研究課題/領域番号 |
20K15086
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
茂木 堯彦 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30794515)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゼオライト / MTO反応 / 反応解析 / オレフィン合成 |
研究実績の概要 |
多様な天然資源の利用と石油プロセスからの脱却を目指し、基礎化成品の製造プロセスが見直され始めている。近年、ゼオライトを触媒としたメタノール転換オレフィン生成反応が注目されている。触媒の構造・性質によってオレフィン類の選択性が変わるが、未だ高選択性を示す触媒の設計は困難である。本申請研究では、ゼオライトの細孔構造と、オレフィン生成反応の主要中間体・主要反応経路との対応関係を明らかにすること、そして活性点位置を制御した合成を行い、高選択性を有するオレフィン生成触媒を提案する。
2021年度にはモデル触媒(MFI型ゼオライト)に対して過渡応答測定を実施した。MTO反応に有用な触媒として広く知られているZSM-5ゼオライト触媒はMFI型の骨格構造を有しているが、その内部の酸点分布は合成法によって異なることが知られている。今回は骨格構造の影響を排除し、反応空間の影響を抽出して調査するため、異なる酸点分布を有するアルミノシリケートゼオライトであるZSM-5(MFI型)をモデル触媒として調製した。構造規定剤としてテトラプロピルアンモニウムを用いた場合には細孔交点に、トリメチロールエタンおよびナトリウムを用いた場合には細孔に、酸点が多く分布していることをモデル炭化水素のクラッキング反応によって確認した。みかけのMTO反応特性である生成物選択性にほとんど差が見られなかったのに対し、それぞれの触媒について過渡応答測定を実施したところ、プロピレン生成過程において明らかな違いが見られた。 次年度においてはこれらの違いについて、プロピレン生成のメカニズムと細孔構造との関連性に着目しながらより詳細に調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき、モデルゼオライト触媒の合成、実際の過渡応答解析を行い、概ね順調に研究を遂行した。 特に構造規定剤を工夫することによって、同じ結晶構造を有するが酸点分布が異なるZSM-5ゼオライト触媒(テトラプロピルアンモニウム-ZSM5およびトリメチロールエタン-ZSM5)を合成し、実際にその酸点分布が異なることをモデルクラッキング反応および固体NMR分析によって確認しており、実際のMTO反応における標識炭素の挿入過程について検討する準備はほぼ完了したと言える。 実際の過渡応答解析については、テトラプロピルアンモニウム-ZSM5を用いた場合、プロピレンへの標識炭素挿入過程が逐次的に進行している様子が観測された野に対し、トリメチロールエタン-ZSM5を用いた場合では標識炭素が同時並行的に挿入されていく様子が観測された。これらの知見は過去に行われてきた標識炭素を利用した反応メカニズム解析実験よりも、プロピレン生成に特化した情報を含んでおり、世界初の観測結果である。
これら、モデル触媒の合成と実際の過渡応答解析が実行できたことで、全体の研究進行度としては順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度にはさらに過渡応答解析の結果に対して解析を進めていく。 また、プロピレンだけでなく他の低級オレフィンについても同様の測定が可能かどうか検討する予定である。
カーボンプールメカニズムはおおよそ正しいと信じられているが、ゼオライト細孔内に複数のカーボンプール種が存在し、それぞれが協奏的に反応中間体としての役割を果たしている場合、どの種が支配的なのかという疑問に対しては、過渡応答解析でしか答えを出すことができない。 2022年度の測定および解析によって、この問いに答えられることができると期待している。
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