木質バイオマスはセルロース,ヘミセルロース,リグニンなどから構成され,炭素含有割合約50%の有用な炭素源である。本研究は,触媒金属と木質バイオマスとの相互作用を明らかにし,バイオマスから結晶性・アモルファス性を自在に制御したカーボンの合成法確立を企図した。 木質バイオマスの炭素化に際して生成するカーボンの結晶性を自在に制御できるようにするため,金属触媒(Fe)が木質バイオマスとどのように相互作用・反応するかを検討した。木質バイオマスの炭素化は金属触媒の含浸,乾燥,熱処理のプロセスを経る。本研究では,1.金属触媒の担持後,2.結晶性カーボンの生成前,3. 結晶性カーボンの生成直後,4. 結晶性カーボン生成が充分に生成後 のそれぞれの段階においてX線光電子スペクトル分析(XPS)および X線吸収微細構造(XAFS)解析により金属の価数,配位環境を調べた。その結果,触媒が熱処理中にゼロ価に変化すること,触媒が酸素を介してバイオマスと結合すること,結晶性カーボン生成時における触媒の価数・結合状態の推移等を明らかにし,結晶性カーボン生成におけるミクロ視点のメカニズムを明らかにした。 また,合成したカーボンを用いて負極ハーフセル,二極式セルを調製し,充放電特性評価装置によりリチウムイオン電池,および電気二重層キャパシターとしての特性をそれぞれ評価した。さらに,カーボンを混錬したイソプレンゴムの引張強度等を測定し,ゴム添加剤として評価した。その結果,合成した結晶性カーボンは高速充電領域では市販黒鉛と同程度の充電容量を示し,低速充電領域においても結晶性を高くすることで充電容量を向上させることに成功した。また,カーボンを添加したゴムは既存の添加剤の80%程度の引張強度を示したほか,カーボンの微細化,化学修飾(アルキル化)を行うことで,より引張強度の向上が可能であることも示唆された。
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