研究課題/領域番号 |
20K15092
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
猪股 雄介 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (40824024)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脱硝 / NH3-SCR / 酸化バナジウム / 酸化タングステン / 環境触媒 |
研究実績の概要 |
本研究は低温・水蒸気共存下での窒素酸化物除去を目指し、タングステン導入バルク酸化バナジウム触媒の合成を目的とした。 シュウ酸塩法により触媒前駆体であるメタバナジン酸とメタタングステン酸の量を変化させることで、0-40 mol% W置換酸化V2O5触媒 (xW-V, x=0-40) を合成した。原子分解能HAADF-STEM測定からV2O5上のWの状態の直接観察をおこなったところ、3.5W-VではV2O5格子中のバナジウムサイトの一部が原子状にW原子で置換され、Wが固溶していることが示唆された。一方、タングステンを過剰導入するとW原子の凝集部位が確認された。V2O5は層間がファンデルワールス力で結ばれた層状化合物であるが、X線回折測定(XRD)によりV2O5の結晶構造のb軸方向に対応する(010)ピークが高角側にシフトし、W導入により層間の結合生成が示唆された。 150oCにおけるNH3-SCR活性を測定したところ、0W-Vは 82% (dry)、47% (10 vol% water) のNO転化率で、水蒸気導入により活性が低下した。 一方、3.5W-Vでは<99% (dry)、93% (10 vol% water) のNO転化率を示し、水蒸気による活性低下が抑制された。 触媒試験後の比表面積測定から、0W-V では比表面積が低下したが (41 m2 g-1 →18 m2 g-1)、W添加触媒では比表面積が維持され (39 m2 g-1)、 W添加により水蒸気による触媒劣化が抑制された。 Operando分光測定法による反応機構解析から、W無しV2O5触媒では水吸着による反応基質の吸着阻害が起こる一方、W添加触媒ではLewis酸点に水分子が解離吸着し、新たにブレンステッド酸点が形成され、水分共存下でも高いNH3-SCR活性を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回触媒合成に用いたシュウ酸塩法は、比較的大きな表面積をもつ酸化バナジウム触媒が合成可能で、また触媒組成を簡便に変化させることが可能であることから、高い脱硝能を有する触媒を円滑に見出すことができたと考えられる。 NH3-SCRでは酸点とレドックス点が触媒設計に重要であると考えられる。またバナジウム系触媒では、触媒表面の還元に伴う吸着アンモニアと一酸化窒素の反応が律速過程であることが示されている。定置ボイラー用の現行触媒にはTiO2に担持されたV2O5-WO3が用いられているが、担持系触媒と比べバルク結晶構造を有する酸化バナジウム系触媒がレドックス能が高いことから、低温でもNH3-SCR活性を示したと考えられる。 排ガス中に含まれる水蒸気は、NH3-SCR活性を低下させる要因として知られている。一般的にルイス酸は水で失活するが、今回合成したタングステン導入酸化バナジウム触媒では、ブレンステッド酸点が水分共存下で増大したことから、低温・水蒸気雰囲気でも高いNH3-SCR活性を示すことが示唆される。 本研究で合成した触媒は簡便な方法で合成でき、かつ低温150oC以下低温で20%程度の水蒸気存在下でも高い脱硝性能を示すことから、実用触媒としても展開可能と期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまで合成した、タングステン導入酸化バナジウム触媒では水蒸気雰囲気下でも150oCで90%以上のNO転化率を示した。一方、100oC程度まで反応温度が低下すると、40%までNO転化率が減少した。そのため、さらに低温域での80%以上のNO転化率を示すNH3-SCR触媒の検討をおこなう。 V2O5に添加する異種金属をタングステン以外に拡張し、100oC程度の温度域でもNH3-SCR活性を示す触媒探索をおこなう。NH3-SCRはNO+NO2共存下で、NOのみと比較し反応速度が増大することが知られている。銅、マンガンなど酸化活性の高い金属を導入し系中でNOとNO2を共存させることで、低温域での活性の向上を試みる。 また、V2O5の安定相以外の準安定相や複合酸化物を検討する。NH3-SCRは酸化バナジウム表面の還元過程が律速段階であることが示されている。alpha-V2O5は安定相として知られているが、準安定相であるgamma-V2O5がより酸化還元能が高いことが知られている。準安定相V2O5をベースとして、タングステンの導入を試みる。また、複合バナジウム酸化物は、バナジウムユニットの配列がV2O5とは異なることから、新規触媒特性が期待され、固体酸性を示す金属ユニットとレドックス活性をもつバナジウムユニットが共存するような複合酸化物をデザインすることで、低温域でのNH3-SCR活性向上を図る。 タングステン導入酸化バナジウム触媒のNH3-SCRのにおける反応次数は0.2(NH3)、 1.0(NO)、 0.2(O2)とNOで大きく、NO吸着が弱いことが示唆されている。そこで、アルカリ金属等をドープしNO吸着点を導入することで、従来のバナジウム系触媒とは異なる反応機構で進行する触媒系を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
・次年度使用額が生じた理由 触媒合成条件の最適化において当初の予定以上の検討が必要となった。また、触媒活性と表面物性の相関を詳細に検討する必要があり、当初の予定よりも触媒のキャラクタリゼーションに重きを置いた。 ・次年度研究費の使用計画 複合酸化物合成や異種金属ドープのスクリーニングに必要な消耗品類や器具の購入に充てる。また、N2収量を算出するため、N2同定が可能な実験系を構築するための機器購入に充てる。
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