本研究では、低分子医薬品から成る有機ナノ結晶とがん抗原認識抗体を組み合わせることで、高濃度の薬剤を疾患患部特異的に送達できる新しい医薬フォーマットの開発に取り組んでいる。本年度は主に、前年度取得した薬剤ペプチドを移植する足場タンパク質の選定と安定化に取り組んだ。 まず、足場として用いるタンパク質を選定した。足場タンパク質の選定条件として、単量体であること、サイズが小さいこと、ジスルフィド結合を含まないこと、熱安定性が高いことを条件に5種類選抜した。大腸菌発現システムにより調製した天然型の足場タンパク質を調製し、収率や安定性を事前に調査した。Rosettaソフトウェアを用いてこの足場タンパク質のループ構造部位にペプチドを移植した。この際、連結部位の両端2残基を任意のアミノ酸となるように自由度を持たせて移植を実施した。ペプチド移植後のタンパク質について、タンパク質構造の安定性を示すスコアであるRosetta total energy (REU) を指標に設計したタンパク質を選抜した。このタンパク質を大腸菌発現系で発現させたところ、足場タンパク質のうち幾つかは発現量が大幅に低下することが分かった。発現したものについては、薬剤結晶との相互作用を解析し、選択的な結合能を保持していることが分かった。発現量が低下したものについては、安定性向上を目指し、Rosettaソフトウェアで更に改良することとした。配列保存度情報である位置特異的重み行列を変異制限パラメータとして、Rosettaソフトウェアで変異体を作成した。REU値の低かった上位5個の変異体を解析すると、天然型に比べREU値が低く、安定化していることが示唆された。この上位5個の変異体について、ウェット実験で評価したところ、全ての変異体で発現量の改善が確認できた。
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