研究課題
タンパク質、核酸、細胞といったバイオ材料は、担体や基板表面に固定化することで効率よくその機能を利用することができる。ナノファイバータンパク質AtaAはプラスチックからガラス、金属、さらにはテフロン(PTFE)など様々な材料表面に対し水中で非常に高い接着性を示すため、革新的なバイオ材料固定化マテリアルとして期待されている。最近、細菌由来の接着タンパク質AtaAの接着には材料表面との直接的な相互作用だけでなくファイバーの粘弾性も重要な役割を果たしており、AtaAの接着はいわば「粘着」であることが明らかになってきた。しかしAtaAほど強い粘弾性を長距離にわたって示して接着するタンパク質はこれまでに報告がなく、その発現メカニズムは全くの不明である。本研究では、AtaAのナノ力学特性を原子間力顕微鏡(AFM)と分子動力学シミュレーションを用いて解析することで、AtaAの ①どこが、②どのように、粘弾性を発揮するのか明らかにする。本年度は、部分欠損変異体による粘弾性領域の絞り込みとリコンビナントタンパク質での測定準備を行った。AtaAの部分欠損変異体を発現させたAcinetobacter sp. Tol 5のataA欠損株をガラスボトムディッシュに固定し、AFMを用いてシリコンプローブカンチレバーを細胞に押し付けフォースカーブを液中測定した。最大付着力に大きな違いは見られなかったが、伸長距離は欠損領域によって違いが見られた。違いが見られた領域とそうでない領域について、AFM測定用のペプチドタグを融合したリコンビナントタンパク質の発現プラスミドを複数構築した。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、粘弾性に関わると思われる領域を絞り込めたため。
粘弾性に関わる領域について、力がかかった際の構造変化を分子動力学シミュレーションにより明らかにする。それと並行して、粘弾性に重要と思われる残基に変異を加えたリコンビナントタンパク質のナノ力学特性をAFMにより調べる。
当初の計画以上に、部分欠損変異体による粘弾性領域の絞り込みがスムーズに進んだが、粘弾性に関わる領域が想定していたよりも広いことが示唆された。そのため次年度は、高額な消耗品を必要とする粘弾性領域のリコンビナントタンパク質のAFM測定を多数行う計画である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 21249
10.1038/s41598-020-77706-7