創薬において初代培養肝細胞の代替として期待されているヒト多能性幹細胞由来肝細胞(hPSC-Hep)は、未熟な状態であり機能の発揮が不十分である。近年、生体内の肝臓において体内時計を司る時計遺伝子による薬物代謝調節機構が明らかとなり、その重要性が注目されている。一方で、hPSC-Hepにおいては体内時計の獲得時期や、時計遺伝子と肝機能との関連性については不明である。本研究では、分化誘導因子や時計同調因子を厳密に時間制御できるマイクロ流体デバイス(μFD)を用いてhPSC-Hepが分化過程における体内時計獲得機構とその肝機能との関連性を解明し、機能化・成熟化を促進するシステムの構築を目指す。 本年度は、時計を加味しない通常培養における肝分化過程における時計遺伝子の発現変動を解析した。Period2遺伝子はhESC 段階ではデキサメタゾンによる同調刺激に応じて発現変動を示さなかったが、肝芽細胞の段階では発現の増加が確認された。成熟後半の段階ではデキサメタゾンによる同調刺激に応じて発現が増加したが、24時間後に同値付近に達することはなかった。一方で、初代肝細胞を用いた場合、発現変動に周期性が見られたことから、時計リズムを加味していない本手法では分化が正常に行われていないことが示唆された。 次にマイクロ流体デバイス内で時計を加味した培養を実施した。デバイス培養ではdish培養と異なり、細胞への負荷が大きく、培地交換時にデバイス内の細胞剥離が認められたため、プロトコルを改変して剥離を防止することに成功した。 時計を同調させる体内リズムのうち、体温リズムに対する肝細胞の効果を調べるために、肝細胞の成熟過程に熱刺激を与えたところ、分化が促進され、肝機能が向上することを明らかにした。
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