研究課題/領域番号 |
20K15100
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡橋 伸幸 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (30802748)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 13C代謝フラックス解析 / 細胞分化 / 分化制御 / 中心炭素代謝 / 補酵素バランス |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞内の代謝反応速度を計測できる13C代謝フラックス解析法を用いて、分化前後の細胞の代謝状態を比較し、得られた結果をもとに代謝状態を調節することで、細胞の分化方向性を外的に制御することが目的である。本年度は昨年度に血球系細胞に最適化した代謝フラックス解析基盤を利用して、好中球様に分化させたHL-60細胞やマクロファージ様に分化させたTHP-1細胞の解析を進めた。その結果、HL-60細胞では、分化に伴ってグルコースの取り込みが減少する一方、アルギニンの取り込みが増加し、解糖系からTCAサイクルに依存した代謝状態へと変化することが明らかとなった。この知見に基づき、培地中からアルギニンを除去したところ細胞分化が著しく抑制され、細胞分化に重要な代謝状態の一端をとらえることができた。また、分化後のHL-60細胞のフラックス解析には、グリコーゲン分解や脂肪酸分解といった従来考慮されてこなかった反応を代謝モデルに含める必要があることを見出し、代謝フラックス解析の高精度化を実現できた。同様の解析を分化前後のTHP-1細胞についても行ったところ、HL-60細胞とは対照的に分化後のTHP-1細胞では著しいグルコース代謝の活性化が見られ、中でも酸化的ペントースリン酸経路のフラックスは分化前の228倍と著しい増加を示した。そこで、細胞分化誘導時に、当該経路の初発反応を阻害する6アミノニコチンアミドを培地中に添加したところ、細胞分化率が6アミノニコチンアミド濃度依存的に抑制されることが明らかとなった。以上のように、代謝フラックス解析を用いて分化前後の細胞で著しく活性が変化する反応を見出し、その阻害によって細胞分化を抑制することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに最適化した解析基盤を用いて血球系細胞の分化前後の代謝フラックス分布を計測することができた。さらに、分化に伴って著しくフラックスが変化する代謝経路を特定し、その阻害によって細胞分化を人為的に抑制することに成功したため、当初見込んだ通り順調に研究を進めることができたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
フラックス解析結果に基づき、代謝阻害剤の添加や炭素源の除去によって細胞分化を制御できた細胞株は、そのメカニズムを明らかにするために遺伝子発現量や代謝物量などの変動を解析し、これまでのデータと併せて投稿論文としてまとめる。さらに、本年度新たに見出したグリコーゲン分解や脂肪酸分解などHL-60細胞の分化に伴って活性化が示唆される反応については、その阻害が細胞の分化に与える影響を引き続き解析する予定である。
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