本研究では長期的に間葉系幹細胞の生存率を維持することが可能な移植用担体の設計指針の確立を試みる。この目標を達成するため「生体適合性の高い材料を用いた、細胞包括可能な高分子ハイドロゲル」の作製を行った。具体的には高い生体適合性を示し、比較的安価なアルブミンをゲルの骨格分子として選択した。令和2年度は、架橋形成反応を触媒する酵素の基質を修飾したアルブミンゲル化剤を合成した。アルブミンに対する基質修飾量やゲル作製時の各成分濃度を変化させることで得られるゲルの諸特性が制御可能であることを確認している。また高分子水溶液のゲル化時間を評価した結果、合成したアルブミンゲル化剤が細胞包括に適した材料であることを示唆する結果が得られている。 最終年度となる本年度は、まず初めに生体内における分解性を評価するため、プロテアーゼによるゲルの溶解を試みた。その結果、アルブミンに対する基質修飾量がゲルの分解挙動に大きく影響を及ぼすことが確認された。走査型電子顕微鏡を用いてゲルの内部構造を観察した結果、プロテアーゼによる分解が遅い条件のゲルはより緻密な内部構造を有していたことから、架橋密度が高く、分子拡散が制限されてことが先述の結果に起因していると考えられる。最後に細胞包括実験を行った結果、細胞の生存を損なうことなく、アルブミンゲル内に細胞を包埋することが可能であった。以上の結果から、合成したアルブミンゲル化剤が細胞包括材料として利用可能であることが示唆された。 以上、本研究では温和な酵素反応を架橋形成反応として利用することで細胞包括に利用可能なアルブミンゲル化剤を合成することに成功した。得られた成果は国内学会において5件、国際学会において1件の発表を行い、当該分野での成果の共有に努めた。
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