研究課題/領域番号 |
20K15108
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
石井 良樹 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 特任講師 (20806939)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 第一原理計算 / 分子モデリング / ソフトマター / ナノ相分離 / 自己組織化 / 輸送物性 |
研究実績の概要 |
前年度でモデリングを実施したイオン性ソフトマターに対して,ナノ相分離構造の形成メカニズムを検討するため,大規模分子動力学(MD)シミュレーションを実施した。イオン液晶分子が示す自己組織化構造を対象として,幅広い温度で詳しく解析し,イオン液体系との類似性について考察した。これにより,大きな疎水性官能基がイオン性化合物に付与されると,対イオンとなるイオン伝導性キャリアの運動性が著しく下がるものの,高温相でも連続的なイオン性ドメインの形成が確認できた。このとき,一連のイオン液体からイオン液晶のMD計算で得られたイオン伝導率は実験値をよく再現していたことから,イオンの運動性が高い高温相でも,キャリアイオンの拡散性をできるだけ維持できるように双連続型のナノ相分離構造を形成しうることが分かった。それと並行して,イオン液晶分子の高精度分子モデリングを液晶膜として検討されているより広範な材料群に対して展開し,次年度以降の計算科学的材料研究に適用可能な一連の分子力場群を構築した。分子が透過するチャネル構造に働く静電相互作用を正確に考慮できることを確認しつつ,高温相で観測されるダイナミクスも妥当であることを検証した。さらに本年度は分子モデリングの方法論を高分子系へと拡張するとともに,高分子-水溶液界面において重要となる赤外分光バンドに対して,大規模MDシミュレーションを基にした新しい解析手法について整備を進めた。本手法は,ナノ相分離ソフトマターに存在する局所空間における差異を,効率よく抽出可能なように構築できていることから,バルクから界面におけるナノ相分離構造の変化がダイナミクスに及ぼす影響を定量的に解析できる。次年度は本手法などを応用することで,高分子や溶液系を対象としたナノ相分離構造の空間分割解析を展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は凝縮系の第一原理計算を用いた自己無撞着モデリングを応用することで,イオン液体やイオン液晶系,高分子系の分子力場の一般化を進めることができ,実材料として考案されている組成群を対象としたシミュレーション基盤を確立することができた。さらに,高温状態におけるイオン性ソフトマターの輸送係数解析を行うことで,ナノ相分離構造とイオン伝導キャリアの運動性と関連づけた議論が順調に達成できたことから,令和4年度には拡散性のさらに高い水溶液電解質との共存系の議論を展開し,得られたナノ相分離様態が水溶液電解質に及ぼす影響を明らかにする計画である。さらに令和3年度は,実験値が明らかになっている高分子系を対象として,局所空間における赤外分光バンドを,大規模シミュレーションでも効率よく解析する方法論を整備できたことから,今後はその方法を特異的な相分離構造を形成するイオン性ソフトマターへと展開し,ダイナミクスと紐づけた定量的な議論へと発展させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に構築した空間分割解析手法を発展させて,ナノ相分離様態における構造論を相互作用として定量化し,輸送係数やエネルギー特性との関連づけを行う。特に,令和3年度までに分子モデリングを確立してきた様々なナノ相分離ソフトマターとその界面系の分子シミュレーションを展開することで,様々なナノドメインにおける局所構造や緩和速度,安定性などの空間依存性として明らかにし,分子をデザインする上で重要となる知見の創出を目指す。またイオン液体やガラス系だけでなく,高分子系なども対象とした分子シミュレーションも並行して展開することで,相互作用の観点からイオン系と非イオン系におけるダイナミクスを包括的に説明する分子論の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度も継続的なCOVID-19の感染拡大により,出張予定が減少して旅費の支出が少なくなったものの,リモート研究体制とweb会議体制を拡充することでオンライン会議・打ち合わせへの参加を積極的に進めたため,研究の進度に影響はない。令和4年度も研究活動における出張の制限が予想されるが,学会や打ち合わせの実地開催とオンライン・ハイブリッド開催は情勢をみながら選択しつつ,オンライン形式の利点を生かして多様な場で議論を展開し,また学術論文として成果発表を進める計画である。
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