本研究では配位子保護金属クラスターにおける金属原子や配位子、カウンターイオンの結合解離平衡状態を考慮し個々の平衡種の物性を理解すること、また平衡反応を利用した目的の化学種の選択的合成法の確立を目的としている。 1年目では種々のホスフィン系配位子と銀クラスターの系において、ホスフィン配位子数の異なる平衡種が存在することを明らかにした。また、金属クラスターと適切な蛍光色素を組み合わせることにより近赤外光から青色発光への光アップコンバージョンを実現した。最終年度では銀クラスターとホスフィン配位子の結合・解離平衡を制御しつつ、光アップコンバージョンに関わる光物理パラメーターを評価した。その結果、励起された金属クラスターから蛍光色素への三重項エネルギー移動の効率は最表面のホスフィンの有無にかかわらず一定であることがわかった。このことからクラスター-蛍光色素間でのエネルギー移動はホスフィンの配位サイトとは異なるチャネルで起きていることが明らかになった。さらに、蛍光色素が導入された配位子を合成し、クラスターとの結合・解離平衡反応を利用することで、クラスターに直接蛍光色素が結合したクラスター-色素複合系の合成に成功した。また、金属クラスターのカウンターイオンを変更することで溶媒への溶解平衡を制御することが可能になり、大量の金属クラスターを有機溶媒中に溶解させることが可能になった。これにより、金属クラスターのカウンターイオンの種類が金属クラスターの励起状態に与える影響を明らかにすることが可能になった。
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