研究実績の概要 |
独自の表面加工技術を駆使して薄膜成長の下地である単結晶基板全面に原子レベルで粗さ、欠陥が排除された完全結晶表面を実現し、物性劣化が究極に抑制された極薄膜成長をマグネタイト(Fe3O4)薄膜で達成した。強相関酸化物であるマグネタイト(Fe3O4)のバルク材は120K近傍で絶縁体から金属に相転移(フェルベー転移)することで電気抵抗率が2桁以上変化するが、100 nm以下の極薄膜では転移特性が消失する問題があった。主な原因は薄膜成長の起点である下地基板の表面の不完全さ(粗さ・欠陥)を引き継いで薄膜に挿入される結晶欠陥であり、基板に完全結晶表面を実現することで本問題は解決できる。本研究では触媒表面基準エッチング(CAtalyst-Referred Etching, CARE)法を用い、基板加工時に生じた欠陥を除去する後発的アプローチではなく、表面科学的知見でエッチング反応場を精密に制御/限定し、薄膜成長に用いる単結晶基板(下地基板)に欠陥を生じない加工を実現した。本手法をFe3O4の成長下地であるMgO(001)基板に展開することで、欠陥密度が従来の1/1000以下の完全性の高いMgO基板表面を実現し、その上に統計調査した最適条件でパルスレーザー堆積法を利用し、欠陥挿入を極限まで抑制したFe3O4~50 nm厚さ極薄膜を成長させた。従来の不完全さの残る基板上では100 nm以下の極薄膜はフェルベー転移を発現しないが、完全結晶表面MgO上では乱れの無いヘテロ界面が実現されており、これを反映するようにフェルベー転移特性が発現した。さらに、基板全面の完全性向上がチャネル品質の歩留まりを大幅に向上させる(0%⇒79%)ことを実証し、薄膜研究に共通する根本課題への解決策を示した。
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