研究課題/領域番号 |
20K15123
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中室 貴幸 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任准教授 (30831276)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核形成 / 結晶成長 / 結晶化 / 透過電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,原子分解能単分子時間分解電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法によって結晶化過程における分子レベルの詳細を追求した.結晶学的に最も汎用的な塩化ナトリウム(NaCl)をモデル基質として選定し,前年度は核形成の詳細を明らかにしたが,本年度は結晶成長におけるイオン対の動的挙動を高速撮影可能なカメラによって解析した.数原子程度から構築されるクラスターは結晶表面長を浮いており,自由に拡散することが明らかとなった.横,縦,奥行き,そして時間軸の4次元的なクラスター挙動の詳細を精緻に解析することに成功した.モンテカルロ法によって観察結果の妥当性を検証しているところである. 本申請研究では観察対象の拡充を目指した検討も同時に行った.NaClだけでなく他の陽イオン,陰イオンなど多岐に渡る基質への展開可能性が明らかになりつつある.透過電子顕微鏡と高速動画撮影が可能なカメラを組み合わせることにより,結晶化過程における4次元的な振る舞いの顕在化に成功した.より動的な視点で科学現象を捉えることにより,化学現象に対する知見の深化が期待できる.また目で見る分子動画は教育に対する貢献も明らかとなっており,実際に目で見る化学教育の実現がまたれる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度におこなったNaClの核形成挙動の解析(T. Nakamuro et al, J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 1763)が,本研究の概念実証である.すなわち, SMART-EMイメージング法によって,イオン対が集合して核形成を起こす過程を4次元的に追跡することに成功している.本年度の研究では核形成に引き続いて起こる結晶成長過程における,原子レベルでの詳細追跡を目的に検討を行った.清浄なNaCl結晶表面においてイオン対が付着して結晶面へと成長する過程の高速撮影を行い,分子レベルでの機構についての知見を得た.結晶表面上を柔軟に拡散する数原子程度から構築されるクラスター動態が高速撮影から明らかになった.元来二次元情報である透過電子顕微鏡像から,奥行き情報を抽出するべく顕微鏡像の強度解析など徹底的に行っており,4次元的な結晶成長描像が明らかになると期待している. 水分散性円錐状カーボンナノチューブ(CNT)を水溶液に担持させるだけでサンプル調製は完結するため,基質適応範囲の模索が申請研究の展開のためには必須である.他の分子種を用いた場合にも,上述のNaClのときと同様に結晶化過程の研究が可能であることがわかり,更なる解析をもって広く一般的な結晶化過程の機構に関する知見を獲得する予定である.申請研究課題を推進するうえで重要な,電子と物質の相互作用および分子模型の作成についても取り組んだ.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結晶成長過程における結果を精緻に解析するために検討を進める.4次元的な結晶化描像を明らかにするための追加実験をおこない,得られたデータの検証を経て論文投稿する予定である.また本手法の基質適応範囲が問題であるため,将来的な展望としてあげることができる.
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次年度使用額が生じた理由 |
科学研究費助成事業(学術研究助成金)補助事業期間延長承認申請による,補助事業期間の延長である.補助事業の目的をより精緻に達成するための学会参加や論文投稿のために,次年度使用額が生じ,その達成のために利用する計画である.
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